聴くっしょ!作品を朗読してみた~トガシテツヤ・海を渡るひまわり~朗読:yukisige~低音 (1)

概要

ひまわりが太陽に向かって咲き誇っている姿には元気を貰えますよね。
逆であれば…。
色々なものを大切にしたいと思わせる作品でした。

朗読承認ありがとうございました!

語り手: yukisige
語り手(かな):

Twitter ID: @yukisige13
更新日: 2024/07/31 09:10

エピソード名: 海を渡るひまわり

小説名: 海を渡るひまわり
作家: トガシテツヤ
Twitter ID: Togashi_Design


本編

 ひまわりへ贈る言葉なんてない。
 無事に海を渡ってくれれば、それでいい。

 ***

 俺が住む島は、夏になると島中にひまわりが咲き誇り、別名「ひまわり島《じま》」と呼ばれている。太陽に向かって顔を上げる、凛々しいひまわりの姿を一目見ようと、島には国内はもちろん、海外からもたくさんの人が来た。このひまわりが、島の住民の誇りだった。

 ――異変が起きたのは4年前。

 太陽に向かって咲くひまわりの中に、下を向くひまわりが混ざり始めた。俺を含め、みんなも大して気にしていなかったが、3年前は約半分、2年前はほぼ全てのひまわりが下を向いて咲くようになった。

 世界中の著名な学者が原因究明に乗り出したが、原因は分からない。異常な暑さのせいだと言う学者もいれば、島の外から持ち込まれた病原菌のせいだと言う学者もいる。しかし、やっぱり原因の特定には至らなかった。

 そしてついに去年、ひまわり自体が咲かなくなった。

「下を向いて咲くひまわりなんぞに用はない」
「ちゃんとしたひまわりが咲かないこの島に、もう存在価値はない」

 SNSの容赦ない書き込みのせいで、島には誰も来なくなった。

 俺は残ったわずかなひまわりを小舟に乗せ、海へ送り出した。どこかの島の見知らぬ誰かが、このひまわりをまた上を向いて咲く花にしてくれると願って。

 やがて島の存在は人々の記憶からも、地図からも消えた。
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