海を渡るひまわり

作家: トガシテツヤ
作家(かな): とがしてつや

海を渡るひまわり

更新日: 2024/07/30 23:50
ミステリー

本編


 ひまわりへ贈る言葉なんてない。
 無事に海を渡ってくれれば、それでいい。

 ***

 俺が住む島は、夏になると島中にひまわりが咲き誇り、別名「ひまわり島《じま》」と呼ばれている。太陽に向かって顔を上げる、凛々しいひまわりの姿を一目見ようと、島には国内はもちろん、海外からもたくさんの人が来た。このひまわりが、島の住民の誇りだった。

 ――異変が起きたのは4年前。

 太陽に向かって咲くひまわりの中に、下を向くひまわりが混ざり始めた。俺を含め、みんなも大して気にしていなかったが、3年前は約半分、2年前はほぼ全てのひまわりが下を向いて咲くようになった。

 世界中の著名な学者が原因究明に乗り出したが、原因は分からない。異常な暑さのせいだと言う学者もいれば、島の外から持ち込まれた病原菌のせいだと言う学者もいる。しかし、やっぱり原因の特定には至らなかった。

 そしてついに去年、ひまわり自体が咲かなくなった。

「下を向いて咲くひまわりなんぞに用はない」
「ちゃんとしたひまわりが咲かないこの島に、もう存在価値はない」

 SNSの容赦ない書き込みのせいで、島には誰も来なくなった。

 俺は残ったわずかなひまわりを小舟に乗せ、海へ送り出した。どこかの島の見知らぬ誰かが、このひまわりをまた上を向いて咲く花にしてくれると願って。

 やがて島の存在は人々の記憶からも、地図からも消えた。
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