トガシテツヤ・作 ジッポライター
概要
シズル感あふれる作品で、ぜひ読んでみたいと思いました。
日常の中のドラマ。
日常の中のドラマ。
語り手: Polly
語り手(かな): ぽりー
Twitter ID: Nozomi_Kumon
更新日: 2024/06/24 22:45
エピソード名: ジッポライター
小説名: ジッポライター
作家: トガシテツヤ
Twitter ID: Togashi_Design
本編
――タバコとコーヒーってさ、似てるよね。
知り合った頃の、彼女の第一声だった。その時は「なにハードボイルド気取ってんだか」と少し冷ややかな目で見ていたけど、彼女には不思議とそれが似合っていた。
僕のマンションに来た時は、決まってラッキーストライクの箱をテーブルの端にポンと置き、1本くわえてベランダに出る。手すりに寄りかかりながら、使い古したジッポライターでタバコに火をつける仕草が、まるで海外ドラマのワンシーンみたいで好きだ。
「前の彼氏にもらったライター」と遠慮なしに言われた時は、なんて血も涙もない人なんだろうと驚いたけど、なぜか嫌な気はしなかった。ただ、カシャン……カシャンと音を立ててジッポライターの蓋を開け閉めするのは、彼女が前の彼氏のことを思い出しているように見えて、ちょっと複雑な気分になる。
彼女は携帯灰皿にタバコの灰を落としながら、昼から夜にバトンタッチされる街並みをじっと見ている。その横顔は、やっぱり僕にとってスペシャルなんだ。
ちょうど吸い終わる頃を見計らい、僕はテーブルにブラックコーヒーを置く。タバコとコーヒーなんて、体にとっては最悪な組み合わせだが、それは言わない。本人が一番よく分かっているだろうから。
喫煙所――じゃなくて、ベランダから戻った彼女に声をかける。
「あのさ、誕生日に新しいジッポライター、プレゼントするよ」
彼女は細い目を大きく開けて僕を見た。
「これ、ちょうど捨てようと思ってたところ」
手に持っていた古くさいジッポライターを少し見つめて、彼女はそれをポケットにしまった。
禁煙を勧めるのは、まだ先になりそうだ。
知り合った頃の、彼女の第一声だった。その時は「なにハードボイルド気取ってんだか」と少し冷ややかな目で見ていたけど、彼女には不思議とそれが似合っていた。
僕のマンションに来た時は、決まってラッキーストライクの箱をテーブルの端にポンと置き、1本くわえてベランダに出る。手すりに寄りかかりながら、使い古したジッポライターでタバコに火をつける仕草が、まるで海外ドラマのワンシーンみたいで好きだ。
「前の彼氏にもらったライター」と遠慮なしに言われた時は、なんて血も涙もない人なんだろうと驚いたけど、なぜか嫌な気はしなかった。ただ、カシャン……カシャンと音を立ててジッポライターの蓋を開け閉めするのは、彼女が前の彼氏のことを思い出しているように見えて、ちょっと複雑な気分になる。
彼女は携帯灰皿にタバコの灰を落としながら、昼から夜にバトンタッチされる街並みをじっと見ている。その横顔は、やっぱり僕にとってスペシャルなんだ。
ちょうど吸い終わる頃を見計らい、僕はテーブルにブラックコーヒーを置く。タバコとコーヒーなんて、体にとっては最悪な組み合わせだが、それは言わない。本人が一番よく分かっているだろうから。
喫煙所――じゃなくて、ベランダから戻った彼女に声をかける。
「あのさ、誕生日に新しいジッポライター、プレゼントするよ」
彼女は細い目を大きく開けて僕を見た。
「これ、ちょうど捨てようと思ってたところ」
手に持っていた古くさいジッポライターを少し見つめて、彼女はそれをポケットにしまった。
禁煙を勧めるのは、まだ先になりそうだ。