「一陣の風を呼ぶ」作/トガシテツヤ 声/開運小天
概要
オホーツクのキンキンに冷えた空気のなか、オジロワシの勇姿が霞んでゆく。
語り手: 開運小天
語り手(かな): かいうんしょうてん
Twitter ID: Betterfortune9
更新日: 2024/06/01 12:14
エピソード名: 一陣の風を呼ぶ
小説名: 一陣の風を呼ぶ
作家: トガシテツヤ
Twitter ID: Togashi_Design
本編
新雪の上に、灰色の塊が横たわっている。おそらく、車と接触したオジロワシだ。怪我はしていない。軽い脳震盪《のうしんとう》を起こしただけだろう。
僕はオジロワシを両手に抱え、海岸へと向かった。
オホーツク海の向こう、定規で線を引いたような水平線に、雪化粧をした知床連山が、蜃気楼のように揺らいでいる。
僕は岸壁に立ち、「ふぅ……」と静かに息を吐き、オジロワシを抱えた両手を空に掲げた。
――飛べ。
刹那、一陣の風と共に、オジロワシの体はふわりと宙を舞う。その大きな翼は風を切り裂き、高く、遠く、海よりも深い紺碧の空へと消えて行った。
きっと知床連山まで、一直線に飛べるだろう。
やがて風は止み、知床連山は煙のように、ふっとその姿を消した。
――還れたんだな。
僕は踵《きびす》を返した。
僕はオジロワシを両手に抱え、海岸へと向かった。
オホーツク海の向こう、定規で線を引いたような水平線に、雪化粧をした知床連山が、蜃気楼のように揺らいでいる。
僕は岸壁に立ち、「ふぅ……」と静かに息を吐き、オジロワシを抱えた両手を空に掲げた。
――飛べ。
刹那、一陣の風と共に、オジロワシの体はふわりと宙を舞う。その大きな翼は風を切り裂き、高く、遠く、海よりも深い紺碧の空へと消えて行った。
きっと知床連山まで、一直線に飛べるだろう。
やがて風は止み、知床連山は煙のように、ふっとその姿を消した。
――還れたんだな。
僕は踵《きびす》を返した。