【聴くっショ!で読むっしょ!】「悲しいのです」【@hear】

概要

先日身内を亡くしました。
棺の蓋が閉められる直前にお顔を見たら
目からつぅっと一筋の涙がこぼれてたのを
この詩を読んで思い出しました。
悲しいのはこちら側の人間だけじゃないんですね、きっと。。

思いのままに読ませていただきました。
ありがとうございました。

語り手: ぬっぴぃ
語り手(かな): ぬっぴぃ

Twitter ID: hisano_nuppy
更新日: 2023/06/02 21:46

エピソード名: 「悲しいのです」

小説名: 「悲しいのです」
作家: 詩月 七夜
Twitter ID: Shiduki_Nanaya


本編

道端に落ちた蝉(せみ)の翅(はね)

既に主は地に還(かえ)り

取り残された「夏の夢」

羽搏(はば)いた昔日の蒼穹(そら)に

翅は声無く呟いた

悲しいのです

悲しいのです



降りしきる雪片は無情の美

その中で身動きしない古びた電柱は

背負った歳月に押し潰されそう

老いた木の身体で冬の嵐に打ちひしがれ

言葉を紡(つむ)がぬその身を嘆き

やがて朽ちるように倒れ伏す

命の綱たる電線が上げるのは

風を切り裂く金切り声

悲しいのです

悲しいのです



明滅する命脈に

か細く繋ぐ|呼吸音(さいごのあがき)

視界は細く霞みゆく

だから囲む人々の顔も見えない

遠くから聞こえる呼び声も

やがては糸のように断ち切れる

囲む皆が口にする

「逝かないで」という餞別に

微笑むしか答えが無い

悲しいのです

悲しいのです



ただ悲しいのです
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