【朗読】 朝、白い月がキレイでした。たったそれだけ。

概要

たかがそれだけのこと。されどそれだけのこと。

語り手: kuro
語り手(かな): くろ

Twitter ID: shirokuromono96
更新日: 2024/01/23 23:53

エピソード名: 朝、白い月がキレイでした。たったそれだけ。

小説名: 朝、白い月がキレイでした。たったそれだけ。
作家: 浜風 帆
Twitter ID: @HamakazeHo


本編

会社へ向かうため家を出る。気持ちの良い朝。
空は冬の寒さをはらみ、凛と澄み渡っている。
団地の建物の奥に、白い月がはっきりと見えた。
鮮やかな水色の空に、表情がはっきりと読み取れる白い月。
そのコントラストが気持ちよくて、しばらく空を眺めていた。

どこか儚げで、でもしっかりとおしゃれを決め込んだお姫様のように、
その月は、存在感を放っていた。
そして、その輝きが心地よかった。

この一瞬の輝きに、心が、静かに共振する。

たったそれだけ。
たったそれだけのことに、心が震えた。


心が共振する。
ある時は、ピー、チー、ピー、チーさえずる、目白の楽しげな声に。
ある時は、時空を歪ませる、圧倒的な夕日の圧力に。
ある時は、芳しいコーヒーの香りと、心地よい音楽と空間に。
ある時は、金木犀の残り香と、地面に散った小さなオレンジ色の花びらに。
竹林を開拓した里山に風が吹く。心地よい風を体で受け止める。
絶え間なく続く波の音、潮の香り、足を濡らした海水の冷たさ。
親と行ったキャンプでの冒険。パチパチと爆ぜた焚き火の熱さ。
アスレチックで見た、一人で到達した子供の誇らしげな顔。


「あ。歩いた!」とヨタリと一歩踏み出した足。
たったの一歩。その一歩が運んできた抱えきれぬほどの大きな笑顔。

たったそれだけ。
すべてのことは、たったそれだけの積み重ね。



そして、共振がはじまると、
いろんな狭間で漂い、失った心が、ひょっこり震えて顔を出す。

あの人が奏でた音楽のように。
あの人が読み上げた言葉の粒のように。
あの人が紡ぎ出したお話のように。
あの人が描いた絵画のように。
あの人が作り出した空間のように。

共振したいと顔を出す。

だから、今日も、狭間でもがいている。
苦しさと楽しさを織り交ぜて、共振しようともがいている。


すべてのことは、「たったそれだけ」。
繰り返し、積み重ね、混じり合い。
そして、ここに、私がいる。

今日は、朝、空に浮かぶ白い月がキレイでした。
うん。たったそれだけのこと。

Fin
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