朝、白い月がキレイでした。たったそれだけ。

作家: 浜風 帆
作家(かな): はまかぜ ほ

朝、白い月がキレイでした。たったそれだけ。

更新日: 2024/01/01 08:40
詩、童話

本編


会社へ向かうため家を出る。気持ちの良い朝。
空は冬の寒さをはらみ、凛と澄み渡っている。
団地の建物の奥に、白い月がはっきりと見えた。
鮮やかな水色の空に、表情がはっきりと読み取れる白い月。
そのコントラストが気持ちよくて、しばらく空を眺めていた。

どこか儚げで、でもしっかりとおしゃれを決め込んだお姫様のように、
その月は、存在感を放っていた。
そして、その輝きが心地よかった。

この一瞬の輝きに、心が、静かに共振する。

たったそれだけ。
たったそれだけのことに、心が震えた。


心が共振する。
ある時は、ピー、チー、ピー、チーさえずる、目白の楽しげな声に。
ある時は、時空を歪ませる、圧倒的な夕日の圧力に。
ある時は、芳しいコーヒーの香りと、心地よい音楽と空間に。
ある時は、金木犀の残り香と、地面に散った小さなオレンジ色の花びらに。
竹林を開拓した里山に風が吹く。心地よい風を体で受け止める。
絶え間なく続く波の音、潮の香り、足を濡らした海水の冷たさ。
親と行ったキャンプでの冒険。パチパチと爆ぜた焚き火の熱さ。
アスレチックで見た、一人で到達した子供の誇らしげな顔。


「あ。歩いた!」とヨタリと一歩踏み出した足。
たったの一歩。その一歩が運んできた抱えきれぬほどの大きな笑顔。

たったそれだけ。
すべてのことは、たったそれだけの積み重ね。



そして、共振がはじまると、
いろんな狭間で漂い、失った心が、ひょっこり震えて顔を出す。

あの人が奏でた音楽のように。
あの人が読み上げた言葉の粒のように。
あの人が紡ぎ出したお話のように。
あの人が描いた絵画のように。
あの人が作り出した空間のように。

共振したいと顔を出す。

だから、今日も、狭間でもがいている。
苦しさと楽しさを織り交ぜて、共振しようともがいている。


すべてのことは、「たったそれだけ」。
繰り返し、積み重ね、混じり合い。
そして、ここに、私がいる。

今日は、朝、空に浮かぶ白い月がキレイでした。
うん。たったそれだけのこと。

Fin
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