【SS朗読】48『ワンダー』帆多 丁(作)

概要

もう叶えられる未来
人類が平和にこの時を迎えられますように

帆多 丁 様 
承認ありがとうございました。
今後の創作活動も応援しております。

語り手: 吉史あん
語り手(かな): よしふみあん

Twitter ID: tsubuyakiaiueon
更新日: 2023/11/08 11:40

エピソード名: 妹よ

小説名: ワンダー
作家: 帆多 丁
Twitter ID: wahoo_gyudon


本編

 とっぷり暮れた農道に軽トラックのエンジンもとろとろ鳴り、帰宅して仏壇の《《おりん》》を鳴らして両親に手を合わせ、遺影を手に梯子《はしご》を登る。
 古い梯子《はしご》はきしきしと音を立て、俺たちは屋根の上に出る。

 お前が十二歳の時に作ったこの「台」の役割は、今日で終わるはずだったけれど、意外と、俺はこの場所が気に入ってしまった。
 七月三日、夜の七時四十八分、南寄りの空を東から西へと流れるささやかな星。
 六年前と同じように、俺たちは星を眺めて待っている。

 十六歳の俺に突然できた妹、お前はまるで謎の生き物に思えた。
 だってそうだろう。屋根の上が一番空に近いから登れる台を作れって言いだす妹が、謎でなくてなんなんだよ。
 お前は俺のお下がりのスマホでポチポチ何か調べては台に登り、寝転がり、親父とお袋をさんざん心配させて、

 家を出て、
 街をでて、
 国を出て、
 地球を出た。


 お前を突き動かしたのがなんだったのか、俺には全然わからない。
 でもまぁ、この台の上は、お前が「観測台」と呼んだこの台の上は、気持ちがいいし、俺も少しは勉強したよ。よくわかる星座とか、初めての天文学とか、そういうやつだ。
 七月三日、夜の七時四十八分、南寄りの空を東から西へと流れるささやかな星に見える光。
 お前を乗せて、火星から戻ってくる船の光。

 妹よ。
 とうもろこしは、今でも好きか?
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