【朗読】嘘と海
概要
海の音が聴きたくなりました
素敵な作品をありがとうございました!
素敵な作品をありがとうございました!
語り手: kuro
語り手(かな): くろ
Twitter ID: shirokuromono96
更新日: 2023/07/24 00:34
エピソード名: 海砂糖
小説名: 海砂糖
作家: トガシテツヤ
Twitter ID: Togashi_Design
本編
「海砂糖を1つください」
僕がそう言うと、店主は眉をひそめた。
「あなた、海砂糖を一体何に使うおつもりで?」
「母に……海を見せてあげたくて。生きてるうちに……」
「ほう。何かご事情がおありのようだ」
店主は店の奥から小さなガラスの瓶を大事そうに持って来た。中にはビー玉くらいの大きさの青い玉が1つ、入っている。店主は瓶の蓋を取り、僕の耳元に近づけた。
「あ、波の音がする……」
海のない土地に住んでいる僕は海を見たことがなく、波の音もテレビでしか聞いたことがなかった。でも、瓶の中から聞こえてくる音が波の音だと、すぐに分かった。
「いいですか? 誰かにとっての嘘は、誰かにとっての真実です。嘘をつくなら、最後までつき通してください」
店主はそう言って小瓶を僕に差し出した。財布を出そうとする僕を「結構です」と手で制す。
家に帰ると、父がいた。僕が小瓶を取り出すと、父は「よし」と頷く。
「母さん、コーヒー入れたよ!」
父がそう言いながら、窓の外をじっと見ている母の横にコーヒーを置く。僕は小瓶から青い玉を取り出し、そっとコーヒーに入れた。
母はコーヒーをひと口飲むと、「まぁ……」と言って車椅子から立ち上がった。慌てて父が支える。
「懐かしいわねぇ」
「母さんの故郷、瀬戸内海だよ!」
「こんなところまで、遠かったでしょう? 運転、疲れなかった?」
「ちっとも。楽しいドライブだったよ」
窓から風が吹き込んで来る。
「気持ち良いわねぇ。潮の香りがするわ」
母は嬉しそうに目を閉じた。
「うん。いい風だね。とっても……」
母を支える父の手が震えている。
泣いているんだ。
僕は黙って母と父を後ろから見ていた。僕には、いつもの庭しか見えていない。風は湿気を含んだ、お世辞にも心地いいとは言えない熱風だ。
『誰かにとっての嘘は、誰かにとっての真実です。嘘をつくなら、最後までつき通してください』
さっきの店主の言葉を思い出す。
僕は母の横に立ち、「綺麗だね」と言った。
見えるはずのない、海を見ながら。
僕がそう言うと、店主は眉をひそめた。
「あなた、海砂糖を一体何に使うおつもりで?」
「母に……海を見せてあげたくて。生きてるうちに……」
「ほう。何かご事情がおありのようだ」
店主は店の奥から小さなガラスの瓶を大事そうに持って来た。中にはビー玉くらいの大きさの青い玉が1つ、入っている。店主は瓶の蓋を取り、僕の耳元に近づけた。
「あ、波の音がする……」
海のない土地に住んでいる僕は海を見たことがなく、波の音もテレビでしか聞いたことがなかった。でも、瓶の中から聞こえてくる音が波の音だと、すぐに分かった。
「いいですか? 誰かにとっての嘘は、誰かにとっての真実です。嘘をつくなら、最後までつき通してください」
店主はそう言って小瓶を僕に差し出した。財布を出そうとする僕を「結構です」と手で制す。
家に帰ると、父がいた。僕が小瓶を取り出すと、父は「よし」と頷く。
「母さん、コーヒー入れたよ!」
父がそう言いながら、窓の外をじっと見ている母の横にコーヒーを置く。僕は小瓶から青い玉を取り出し、そっとコーヒーに入れた。
母はコーヒーをひと口飲むと、「まぁ……」と言って車椅子から立ち上がった。慌てて父が支える。
「懐かしいわねぇ」
「母さんの故郷、瀬戸内海だよ!」
「こんなところまで、遠かったでしょう? 運転、疲れなかった?」
「ちっとも。楽しいドライブだったよ」
窓から風が吹き込んで来る。
「気持ち良いわねぇ。潮の香りがするわ」
母は嬉しそうに目を閉じた。
「うん。いい風だね。とっても……」
母を支える父の手が震えている。
泣いているんだ。
僕は黙って母と父を後ろから見ていた。僕には、いつもの庭しか見えていない。風は湿気を含んだ、お世辞にも心地いいとは言えない熱風だ。
『誰かにとっての嘘は、誰かにとっての真実です。嘘をつくなら、最後までつき通してください』
さっきの店主の言葉を思い出す。
僕は母の横に立ち、「綺麗だね」と言った。
見えるはずのない、海を見ながら。