【聴くっショ!で読むっしょ!】雨のキリトリ線【@hear】
概要
日常の何気ない二人の風景。
切り取られてもぶつかってまた一つになって。。
私も雨は嫌いです(笑)
切り取られてもぶつかってまた一つになって。。
私も雨は嫌いです(笑)
語り手: ぬっぴぃ
語り手(かな): ぬっぴぃ
Twitter ID: hisano_nuppy
更新日: 2023/06/02 21:46
エピソード名: 雨のキリトリ線
小説名: 雨のキリトリ線
作家: トガシテツヤ
Twitter ID: Togashi_Design
本編
雨は嫌いだ。
雨が切り取り線みたいになって、僕を切り取ってしまうような気がするから。
「ガチャッ」とドアが開く鈍い音がした。彼女がのそのそと部屋から出て来る。足元が少しふらついているのは、低血糖のせいだろう。いや、図書館への返却期限が迫っている本を、夜中まで読んでいたせいかもしれない。言わんこっちゃない。一旦返して、また借りればいいのに。追い詰められて読んだ本なんて、面白いわけがない。
時計を見ると、午前9時を少し回ったところ。朝に弱くて、日曜日は11時前に起きたためしがない彼女が、この時間に起きるのは珍しい。
――ああ、雨だから、か。
彼女はあくび混じりに「おはよう……」と言いながら、テーブルに置いたコーヒーには目もくれず、「雨……」とだけ呟いて、窓に張り付いた。
僕はパジャマ姿の彼女を見ながら、ブラックコーヒーに口を付けた。相変わらずマズい。普段、砂糖とミルクが入ったコーヒーを飲んでいる僕にとって、ブラックコーヒーはただの苦いお湯だ。こんなものを飲む人の気が知れない。僕はブラックコーヒーも雨も嫌いなのに、僕が好きな彼女は、ブラックコーヒーが好きで、雨が好きで……。
「なんで雨が好きなの?」
彼女の後ろ姿に問いかける。
「雨が好きって言うより、窓に付いた雨粒を見てるのが好きなの。小さな雨粒同士がぶつかって、1つになって、すーっとガラスを滑って下に落ちていくのがね、なんかこう……好きなの」
僕は納得も理解もできないまま「なるほど」とだけ言った。
でも、僕は雨が嫌いだ。雨のせいで、彼女は僕の横から切り取られてしまった。
彼女はようやく窓から離れ、やっぱりふらふらとした足取りでこちらに来た。テーブルの向かいに座って、少し冷めたブラックコーヒーを飲む。「おいしい」とも「マズい」とも言わない。
「ねぇ、それってブラックコーヒー?」
彼女は僕のマグカップを指さした。
「え? ああ……」
「砂糖とミルク、入れればいいのに。ブラックコーヒー、嫌いなんでしょ?」
「見栄を張って飲んでいた」なんて言えず、急に恥ずかしくなった。
僕は「あとで買いに行かないとね。砂糖とミルク」と言うと、彼女は「雨が止んだらね」と笑った。
雨は僕を――僕らを切り取って行く。
切り取られた僕らがどこへ行くのかは分からないけど、それでいいかなって思う。
雨が切り取り線みたいになって、僕を切り取ってしまうような気がするから。
「ガチャッ」とドアが開く鈍い音がした。彼女がのそのそと部屋から出て来る。足元が少しふらついているのは、低血糖のせいだろう。いや、図書館への返却期限が迫っている本を、夜中まで読んでいたせいかもしれない。言わんこっちゃない。一旦返して、また借りればいいのに。追い詰められて読んだ本なんて、面白いわけがない。
時計を見ると、午前9時を少し回ったところ。朝に弱くて、日曜日は11時前に起きたためしがない彼女が、この時間に起きるのは珍しい。
――ああ、雨だから、か。
彼女はあくび混じりに「おはよう……」と言いながら、テーブルに置いたコーヒーには目もくれず、「雨……」とだけ呟いて、窓に張り付いた。
僕はパジャマ姿の彼女を見ながら、ブラックコーヒーに口を付けた。相変わらずマズい。普段、砂糖とミルクが入ったコーヒーを飲んでいる僕にとって、ブラックコーヒーはただの苦いお湯だ。こんなものを飲む人の気が知れない。僕はブラックコーヒーも雨も嫌いなのに、僕が好きな彼女は、ブラックコーヒーが好きで、雨が好きで……。
「なんで雨が好きなの?」
彼女の後ろ姿に問いかける。
「雨が好きって言うより、窓に付いた雨粒を見てるのが好きなの。小さな雨粒同士がぶつかって、1つになって、すーっとガラスを滑って下に落ちていくのがね、なんかこう……好きなの」
僕は納得も理解もできないまま「なるほど」とだけ言った。
でも、僕は雨が嫌いだ。雨のせいで、彼女は僕の横から切り取られてしまった。
彼女はようやく窓から離れ、やっぱりふらふらとした足取りでこちらに来た。テーブルの向かいに座って、少し冷めたブラックコーヒーを飲む。「おいしい」とも「マズい」とも言わない。
「ねぇ、それってブラックコーヒー?」
彼女は僕のマグカップを指さした。
「え? ああ……」
「砂糖とミルク、入れればいいのに。ブラックコーヒー、嫌いなんでしょ?」
「見栄を張って飲んでいた」なんて言えず、急に恥ずかしくなった。
僕は「あとで買いに行かないとね。砂糖とミルク」と言うと、彼女は「雨が止んだらね」と笑った。
雨は僕を――僕らを切り取って行く。
切り取られた僕らがどこへ行くのかは分からないけど、それでいいかなって思う。