聴くっショ作品を朗読してみた~しょこら・帰省~朗読:yukisige

概要

都会に疲れた女性の思い出巡り。
女性の気持ちが心にすとんと落ちて、読みたくなった作品です。
朗読承認ありがとうございました!

語り手: yukisige
語り手(かな):

Twitter ID: @yukisige13
更新日: 2023/06/02 21:46

エピソード名: 帰省

小説名: 帰省
作家: しょこら
Twitter ID: D_D_a52


本編

 子供の頃はずっと都会に憧れていた。
 コンビニすら自転車で二十分掛かる田舎に住んでいた時には、「早く大人になって都会に出てやる!」なんていつも考えていた。
 
「ふう……」
 
 親にたくさん迷惑を掛けながら都会の大学に進学して、都会の大企業に就職して働いているが、私は都会の人混みや人工物に疲れてしまった。
 田舎にいた時には、距離感の近い近所の人たちに散々辟易したものだ。
 なのに、都会の無関心さに寂しさを抱いてしまう。
 お隣のおせっかいなおばちゃんの優しさは、今となってはとても温かいものだった。
 今思えば、閉鎖的で濃い人間関係の学校生活は楽しかった気もする。
 こんな田舎のダサい男なんかに興味はなかった。ずっとテレビやネットで見るようなキラキラした格好いい男性が都会にはわらわらいて、私と恋人になってくれるなんて夢想したりもした。
 馬鹿な少女だった。
 都会にだって芸能人みたいな人は早々いないし、田舎にいても都会にいても私の恋人いない歴は年齢とイコールのままだ。
 昔はよかった、なんて言いたくもない。
 現状に具体的な不満があるわけでもないのに、私は故郷に帰りたいと思って夏休みに帰省した。
 
 父は病気で亡くなっており、母は長男夫婦とその子供と暮らしている。
 私の優秀な兄は、歩くたびに軋んだ床や隙間風が酷い窓や狭くて使いにくいお風呂のあった家を全部壊して建て替えた。
 膝の悪い母でも快適に過ごせる素晴らしい家になっていて、当然私の部屋なんてなかった。私は広々として快適な客間で居心地悪く過ごした。
 ここは私の実家ではないと思った。
 兄も兄の奥さんもとても優しいし、甥っ子もとても人懐っこくて可愛いのに。
 老けた母も、気持ちに余裕ができたのか習い事やボランティアをしたりして充実した暮らしをしているようだ。
 みんなの幸せを築く快適な家なのに、私は昔のオンボロの家が懐かしくて仕方なかった。
 
 私は思い出の地を巡った。
 昔通った幼稚園は隣の幼稚園と併合して、アスベストが問題になっていたりして取り壊され今はもう草むらになっていた。
 昔通った小学校は廃校になって、今は田舎暮らしに憧れるアーティストたちが暮らす集合住宅兼アトリエ兼美術館になっている。私が通っていた時よりもずっと綺麗になっているのには驚いた。ちなみに甥っ子は、バスで隣の市の小学校に通うそうだ。
 昔通った中学校は、私が卒業してすぐくらいに建て直しされて面影なんてない。制服もダサいセーラー服と学ランだったのに無難なブレザーになっているし、指定のダサダサジャージも無難なデザインになっているみたいだ。
 昔通った高校は閉校した。そんなに偏差値も高くない男女別学だったから時代の流れに逆らえなかったのだろう。私が通っていた時も共学になるべきかはよく議論されていた。
 私は近所だからこの女子高校に通っただけで愛着もなかった。
 今この高校の校舎には、私が通っていた女子校よりも偏差値がだいぶ高い私立高校の分校が入り、近隣の駅からスクールバスが出まくって優秀な生徒たちを集めまくっているらしい。
 高校時代なんて別に楽しくもなかった。窃盗事件があったり、先生からのセクハラが問題になったり、お菓子を食べ散らかして片付けない人が多くてゴキブリが大量発生したり、同性愛者っぽいクラスメイトが擦り寄ってきて太ももを撫でてきて鳥肌が立ったり、ろくな思い出がない。
 全然やる気のない先生たちばかりで、大学進学に向けての勉強は予備校と通信教育でなんとかした。
 本当お金ばかり掛かっているのに私は全然優秀でもなくて、両親には常に申し訳ない気持ちを抱き続けてきた。
 私が予備校を通うようになって勉強が楽しくなったと告げたら、「よかったね。楽しく勉強できる大学をちゃんと探そうね」と、たくさんオープンキャンバスに一緒に行ってくれたりもした。
 私は本当愛されて育った。家族のことは大好きだった。
 しかし、この田舎くさい故郷が嫌いだった。
 だが都会に出たところで満足もしないで虚無を抱えて生きてきた。
 だから、家族のいる故郷に帰れば心が満たされるかと思った。
 
「そんな簡単なことじゃないね」
 
 思い出の地を巡り続けた。
 駄菓子屋さんは無くなり、コンビニもなくなり、冬に氷が張る池は埋め立てられ、桜通りの桜は老朽化して根元から斬り倒された。
 
 私は家族とバーベキューをしたりしても虚無を抱えたままで、グリーン車で優雅に都会に帰る。
 
「ばいばい。私の中のキラキラした思い出たち」
 
 車窓からは、昔と変わらず田んぼばかりの大嫌いだったど田舎が見えた。
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