【朗読】つまり私は恋をしている

概要

切なくて、ひと癖ある恋心…。
青春の眩しさと、眩しいぶん濃くなっていく影の強さを感じるようなお話だと思いました。文体や世界観がとても好きです。

素敵な作品を朗読させていただき、ありがとうございました。

語り手: こみまみこ
語り手(かな):

Twitter ID: komi035
更新日: 2023/06/02 21:46

エピソード名: つまり私は恋をしている

小説名: つまり私は恋をしている
作家: ながる
Twitter ID: @nagal_narou


本編

 海に向かって叫ぶ夢を見た。
 お腹の底から、喉が痛くなるくらいに。
 あれは確か今年の夏に皆で行った海水浴場。夢の中では人っ子一人いない寂しい砂浜だった。
 叫んだ言葉は覚えていない。言葉ではなかったのかもしれない。ただふつふつと湧きあがる感情を追い出すように、叫んでいた。

 たまたま席替えで隣になった彼を、教科書を借りに来た彼女にふざけて紹介したのが始まり。私達と彼と彼の友達と、カラオケで、公園で、図書館で、一緒に過ごす思い出が増えていった。
 彼女が彼に惹かれていくのを傍で見て、可愛くなっていく親友が嬉しくて、あの手この手でお節介を焼く。

 とどめは夏の海で! なんて、計画通りに行きすぎて、私は共犯者たちとハイタッチしたものだ。物陰からクラッカーを手に飛び出していく。
 少し困ったような、でも幸せそうな彼女の笑顔。それを見つめる彼の優しげな瞳にどきりと胸が鳴る。恋をしている人間というのは、どうしてこんなに魅力的なんだろう。

 みんなで出かけることが少し減った。三人で会うこともまだあるけど、遠慮することも増えた。
 彼女からの相談、彼からの相談、私は力を貸した。
 仲睦まじい二人でいてほしい。でも時々、彼が眩しそうに彼女を見るときなんかに、私の心はギシギシ鳴った。
 親友を取られて寂しいんだろう。そう思いたかった。

 叫び声が耳にこびりついている。あの浜辺で、まだ私は叫んでいる。
 彼女を泣かせたら許さない。だから、彼が彼女を好きじゃなくなったら、この気持ちは消える。
 なんて勝手な思い。

 彼女に恋してる彼に、つまり私は恋をしている。
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