【朗読】まどかちゃんの作り方 作:柴 語り:テトミヤ【ホラー】

概要

柴様の『まどかちゃんの作り方』を読ませていただきました。

作った当時は暗黙の了解でタブーとなり語られる事無く終わった、小学生の頃に友達と一緒に作ったオリジナルの怪談話を語る私のお話。

柴様、素敵なお話をありがとうございました!

語り手: テトミヤ
語り手(かな): てとみや

Twitter ID: teto_miya
更新日: 2024/11/08 19:27

エピソード名: まどかちゃんの作り方

小説名: まどかちゃんの作り方
作家:
Twitter ID: shibaSpoon


本編

 これは、私が小学生だったころのお話です。
 よく、学校の七不思議ってあるじゃないですか。私の通っていた小学校にもいくつかあったんです。夜な夜な動き出す人体模型とか、涙を流すベートーヴェンとか。
 でも、色々学校の噂を調べたんですけど流石に七個もなくって。
 ホラー・オカルトの類が大好きだった私は、幼心になんだかそれが気に入らなかったんですよ。だから、同じく怪談話が好きだった友達数人を集めて、オリジナルの怪談を新しく考えてそれを継ぎ足すことで、七不思議を作ってしまおうということになったんです。

 とは言っても小学生の考えることですから、どこかで聞いたような話だったり、少し前にホラー番組で放送されていたような内容だったりがほとんどでした。
 それでも自分たちでは、立派な怪談を考えられた気がして満足していたんです。あのことさえなければ、今でもほほえましい思い出だったかもしれません。

 「まどかちゃん」の怪談が誰の発案だったのかは覚えていません。

 曰く、
・いじめを苦に窓から飛び降りた「まどかちゃん」という女の子の幽霊がいる。
・自分がすでに死んでいることに気づいておらず、毎日同じ時間に今も飛び降り続けている。
・紙と十円玉を使って、「まどかちゃん」と交信することができる。
・一枚の紙の右上に【窓の絵】、左下に【地面】と書いて、中央に「はい」、「いいえ」、それとひらがな五十音の表を書く。
・十円玉を右上の窓のところに置き、その上に参加者の人差し指を乗せて、「まどかちゃん遊びましょ」と唱えると、十円玉がひとりでに左下の【地面】コーナーに向かって動き出す。
・十円玉が【地面】コーナーにたどり着く前に、何かまどかちゃんに質問をすると、なんでも答えてくれる。
・もし途中で辞めたくなったら、「まどかちゃんばいばい」と言って強引に十円玉を【地面】コーナーに持っていけば終了できる。

 窓から落ちたから「まどかちゃん」。友達と意見を出し合って考えた内容ですが、今思えばなんで飛び降りした女の子の幽霊が質問に答えてくれるんでしょうね。この辺りは完全にこっくりさんそのままです。ほかにも設定の甘さがところどころ目立つのが、小学生ならではという感じでした。

 でも、せっかく考えたのだから、遊びの一環で実際にやってみようということになりました。
 放課後、画用紙に自分たちで決めた通りの表を書いて、四人で十円玉に人差し指を乗せて唱えたんです。

「まどかちゃん、遊びましょ」

 当然、十円玉は動くはずがありませんでした。だってつい先ほど自分たちで考えただけの怪談だったのだから。でも、私たちの予想に反して、じわりじわりと十円玉が画用紙の上を滑りはじめたのです。
 はじめは四人のうちの誰かが動かしているのだと思いました。お互いに誰がこっそり動かしているのかと顔を見合わせますが、ふざけているような表情をした子はいません。その間も、十円玉はじりじりと【地面】コーナーに向かって画用紙を縦断しています。若干の不安と恐怖を感じた私は、ついこう聞いてしまったんです。

「まどかちゃんは、幽霊ですか?」

 十円玉の進む方向が突然変わりました。私はてっきり「はい」か「いいえ」で回答が来ると思ってたんです。だけど十円玉はそちらには向かわず五十音表の上を滑りました。

【 い 】  【 や 】  【 だ 】

なぜだか、今度ははっきりとした恐怖を覚えました。他の子達も同じだったようです。

「まどかちゃんばいばい!」「ばいばい!」

全員が一斉に指先に力をこめて、十円玉を【地面】コーナーに無理やり押し込みました。その状態のまま私たちはしばし呆然としていましたが、やがてじんじんと痛む指先を一人また一人と離し、気まずい沈黙のなか逃げるように下校しました。

翌朝、緊急で全校朝礼が開かれました。
他学年の女子生徒が、昨日の放課後に学校の窓から落ちて亡くなったのだそうです。
純粋な事故だったそうなのですが、その女子の名前は「円佳(まどか)ちゃん」でした。
裏門側の窓から落ちたそうで、正門側から下校した私たちは騒ぎに気が付かなかったようです。あるいは発見が遅れて、騒ぎが起きる前に下校していたのか。

偶然の一致にしてはあまりにできすぎていて、私たちは呆然と校長先生の話を聞いていました。もしかしたら、私たちがあんな遊びをしなければ、彼女は死なずに済んだのかもしれない。そんな考えが頭をよぎり、いつまでもぬぐえませんでした。

幼い私たちがとった行動は黙秘でした。あの放課後の出来事は話題に出さない、「まどかちゃん」の遊びなんてしていない、そもそも学校の七不思議なんて作っていない。
話し合うこともなかったのに、示し合わせたように私たちの中でこの話題はタブーとなり、結果みんなで考えたオリジナルの七不思議は、出回ることはありませんでした。

だけど、「円佳ちゃん」の噂だけは半ば自然発生的に生まれました。怪談が好きな生徒は私たちだけじゃなかったということですね。

なんでも、四人組で放課後の教室に残っていると、円佳ちゃんの幽霊が窓の外を落ちていくんだそうです。
「いやだ」、と断末魔の悲鳴を上げながら。
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