聴くっしょ!作品を朗読してみた~トガシテツヤ・夜を渡る風~朗読:yukisige
概要
不思議な雰囲気の、ミニマムで丁寧な暮らしをしたくなる作品です。
朗読承認ありがとうございました!
朗読承認ありがとうございました!
語り手: yukisige
語り手(かな):
Twitter ID: @yukisige13
更新日: 2024/10/23 12:28
エピソード名: 夜を渡る風
小説名: 夜を渡る風
作家: トガシテツヤ
Twitter ID: Togashi_Design
本編
目が覚めて、窓から外を見ると、もう日が沈んだ後だった。
――しまった。
夜の風が来る前に買い物に行こうと思ってたのに、さすがに今からだと間に合わない。冷蔵庫を開けて中を確認していると、ドンドンと玄関のドアを叩く音がした。
「毎度どうも!」
前掛けをして、大きな水色の箱を背負ったカエルが玄関の前に立っていた。
「助かるわ。すっかり寝過ごしちゃって……」
「ええ、そんなことだろうと思ってましたよ」
私が「はは」と苦笑いすると、カエルは背負っていた大きな箱をドサッと下ろした。
「水と食べ物、これで2、3日は大丈夫ですから」
「あ、お茶ももらおうかしら」
カエルは「へいへい」と言って後ろを向き、「おーい!」と叫ぶと、大きなお茶の木が、ゆっさゆっさと枝と葉を揺らしながらやって来て、無理やり玄関から入ろうとした。
「あーここでいいから」と言うと、お茶の木は「んん……」と声のような音を発して止まった。お茶の葉を手でぷつんぷつんと摘み取っていると、新茶の香りがした。
「いい香りね」
「天気のいい日が続きましたからねぇ。この子達も、よく育ってくれましたよ」
カエルが得意げに言う。前に来た時は、枝も葉もやせ細っていて心配だったが、今は見違えるほどぷくぷくしていて、健康そのものという感じだ。
「ちょっと多めにもらっていい?」
「ええ、どうぞどうぞ」
お茶の木がいびつな形にならないように、さっきと反対側のところからお茶の葉を摘む。
「ありがとう。もういいわよ」と言うと、お茶の木は「ん」と返事をして、お茶の葉をぽとぽと落としながら、玄関から離れた。
「もうすぐ夜の風が来るわ。悪いわね。こんな時間に来てもらっちゃって」
「大丈夫ですよ。今夜は追い風みたいですから」
カエルはそう言って笑うと、お茶の木にしがみ付いた。
「気を付けて!」
「またのご利用を!」
手を振ると、お茶の木は風に乗って舞い上がり、あっちにふわふわ、こっちにふわふわしながら夜空に消えて行った。
――大丈夫かな……。
心配になりながら玄関のドアを閉めると、家中の窓がガタガタと音を立てた。風が夜を追いかけているんだ。
カエルさんが置いて行った箱の中からビスケットを取り出し、ひと口かじる。お茶と相性がいい。
私はゴーゴーと風を切る音を聞きながら、丸くなって眠った。おとなしくしていれば、すぐに風は収まるだろう。
翌日、風が止んでいることを確認して玄関のドアを開けると、昨晩、お茶の葉が落ちていた辺りから小さな芽が出ていた。
――次の風が来る前に、森になってくれたら嬉しいな。
私は地面から顔を出した小さな芽に、そっと水をかけた。
(了)
――しまった。
夜の風が来る前に買い物に行こうと思ってたのに、さすがに今からだと間に合わない。冷蔵庫を開けて中を確認していると、ドンドンと玄関のドアを叩く音がした。
「毎度どうも!」
前掛けをして、大きな水色の箱を背負ったカエルが玄関の前に立っていた。
「助かるわ。すっかり寝過ごしちゃって……」
「ええ、そんなことだろうと思ってましたよ」
私が「はは」と苦笑いすると、カエルは背負っていた大きな箱をドサッと下ろした。
「水と食べ物、これで2、3日は大丈夫ですから」
「あ、お茶ももらおうかしら」
カエルは「へいへい」と言って後ろを向き、「おーい!」と叫ぶと、大きなお茶の木が、ゆっさゆっさと枝と葉を揺らしながらやって来て、無理やり玄関から入ろうとした。
「あーここでいいから」と言うと、お茶の木は「んん……」と声のような音を発して止まった。お茶の葉を手でぷつんぷつんと摘み取っていると、新茶の香りがした。
「いい香りね」
「天気のいい日が続きましたからねぇ。この子達も、よく育ってくれましたよ」
カエルが得意げに言う。前に来た時は、枝も葉もやせ細っていて心配だったが、今は見違えるほどぷくぷくしていて、健康そのものという感じだ。
「ちょっと多めにもらっていい?」
「ええ、どうぞどうぞ」
お茶の木がいびつな形にならないように、さっきと反対側のところからお茶の葉を摘む。
「ありがとう。もういいわよ」と言うと、お茶の木は「ん」と返事をして、お茶の葉をぽとぽと落としながら、玄関から離れた。
「もうすぐ夜の風が来るわ。悪いわね。こんな時間に来てもらっちゃって」
「大丈夫ですよ。今夜は追い風みたいですから」
カエルはそう言って笑うと、お茶の木にしがみ付いた。
「気を付けて!」
「またのご利用を!」
手を振ると、お茶の木は風に乗って舞い上がり、あっちにふわふわ、こっちにふわふわしながら夜空に消えて行った。
――大丈夫かな……。
心配になりながら玄関のドアを閉めると、家中の窓がガタガタと音を立てた。風が夜を追いかけているんだ。
カエルさんが置いて行った箱の中からビスケットを取り出し、ひと口かじる。お茶と相性がいい。
私はゴーゴーと風を切る音を聞きながら、丸くなって眠った。おとなしくしていれば、すぐに風は収まるだろう。
翌日、風が止んでいることを確認して玄関のドアを開けると、昨晩、お茶の葉が落ちていた辺りから小さな芽が出ていた。
――次の風が来る前に、森になってくれたら嬉しいな。
私は地面から顔を出した小さな芽に、そっと水をかけた。
(了)