図書カードの秘密

概要

姿は見えないけれど、なぜか気になる人。
どんな人かもわからないけれど、ほんのり恋心。

昔の思い出が。。。 まさか?!

語り手: 中島なおみ
語り手(かな):

Twitter ID: dobladordenatch
更新日: 2023/06/02 21:46

エピソード名: 図書カードの秘密

小説名: 図書カードの秘密
作家: 座敷童子
Twitter ID: warashi204


本編

私には忘れられない本がある。

赤川次郎の「三毛猫ホームズの黄昏ホテル」という本だ。私は中学生の頃、この三毛猫ホームズシリーズをよく読んでいた。ミステリーが好きだったこともあって夢中になった。学校の図書室にはずらっとシリーズが並べてあって全巻揃っているように見えた。しかし、この「黄昏ホテル」だけなかったのだ。

私にはひとつ、思い当たることがあった。

今はプライバシーの観点から、ほぼ絶滅したであろう図書貸出カード。本の見返し部分に小さな袋があり、借りる時にはその袋に入っているカードに自分のクラス、名前、貸出日、返却日などを書いた。つまり、そのカードを見れば自分の前に誰が借りたのかわかるのだ。私は前から気になっていたことがあった。私が借りようとする本には、必ずある人の名前があったのだ。その人は、私の借りる数ヶ月前に借りていた。もちろん、このシリーズも借りていて、その名前が「黄昏ホテル」の次の巻「犯罪学講座」の図書カードにはなかったのだ。ということは、その人が「黄昏ホテル」を借りて数ヶ月間、返していないということが考えられた。私はどうしても次が読みたかったので、カウンターに行って図書の先生に言った。

「ああ、山崎健二くんね。この子、先々月、交通事故で亡くなってしまったの」

先生の言葉は、私にはだいぶショックでその後、何を話したか覚えていない。その後私は「三毛猫ホームズシリーズ」を読むのをやめてしまった。


「おーい!聞いてんのかー?」

突然、耳元で声がして我にかえる。
どうやら、本屋でボーっとしていたようだ。一緒に来ていた彼に呆れられた。

「へぇ。懐かしいな。三毛猫ホームズ」

私が手にしていた本をとって彼が呟く。

「読んだことあるの?」

「あるよ。中学生の頃だったかなぁ」

彼とは本の趣味が合うということで意気投合したが、こんな昔の話をしたことはなかった。

「黄昏ホテル…この本、俺、学校から借りパクしたまんまなんだよなぁ」

彼の言葉に耳を疑った。

実は、彼と私は同じ中学校に通っていた。でも、学年が違うのでお互い、全く知らなかったけれど。いやいや、そもそも名前が違う。彼は山崎ではなく、神田だ。…でも、そういえば下の名前は同じなのだ。しかし、図書カードのあの人は交通事故で…。私は頭が混乱してきた。

「おい、大丈夫か?」

私が難しい顔をしていたのだろう。彼が心配して本屋から連れ出してくれた。そのまま、カフェに入る。私は順を追って説明した。

「それ、兄貴のことじゃないかなぁ」

「どういうこと?」

「だから、図書の先生は図書カードの生徒を兄貴だと勘違いしたってこと。実は俺、1つ上の兄貴がいて、でも、中学生の頃、交通事故で死んでるんだ。名前は山崎健一。似てるだろ?」

「苗字違うじゃない」

「あー、俺の両親、離婚してるの。母さんの方に引き取られたから神田になったってわけ。離婚したのは高校生になってからだから、その頃の俺は、山崎健二だよ」

初めて聞くことばかりで面食らっていたが、確かにそれならば納得がいく。図書カードの彼の名前は山崎健二だ。どうやら同一人物のようだ。こんなことってあるんだろうか。

「しかし、図書カードかぁ」

彼がニヤニヤしながら、こっちを見ている。
言いたいことはわかる。某映画みたいだって私だって思ってる。だから、絶対言うもんか。あの頃、「山崎健二」っていう人に恋をしていたなんて。

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