【朗読】とろり溶ける夏。 作:浜風帆 語り:テトミヤ【詩・童話】

概要

浜風帆様の『とろり溶ける夏。』を読ませていただきました。

あるとろける程の暑い夏の日、強い日差しの中海の音と青い空の境の一瞬の静寂が生み出す歪んだ空間に気が付いてしまった私のお話。

浜風帆様、素敵なお話をありがとうございました!

語り手: テトミヤ
語り手(かな): てとみや

Twitter ID: teto_miya
更新日: 2024/10/16 00:40

エピソード名: とろり溶ける夏。

小説名: とろり溶ける夏。
作家: 浜風 帆
Twitter ID: @HamakazeHo


本編

とろり溶ける夏。

扇風機がウーと唸り、ぬるい風運ぶ。
だらり寝そべり、とろりと溶ける。

アブラゼミ、ミンミンゼミ。
近くから、遠くから、喧騒と静寂おり混ぜ、
距離の感覚も狂う。

ふぅ。

むせる熱気に意識も溶けて
夏のカケラがコロンと落ちる。

じっとりした肌。
日焼け止めの香り。
白い帽子。
覚悟を決めて、
一歩外へ。

降り注ぐ日差し。
漆黒の日陰。
二つの世界。
一つの青空。
揺れる陽炎。

笑う太陽。
歌うひまわり。
ざわざわなびいて。
玉の汗落ちて、
……暑い。

ふぅ。

退屈な午後。
声なき公園。
動かぬ遊具。
動かぬ日時計。
乾涸びたミミズ。
喉の渇き。

時間も溶けて。
時が止まる。

人のいない道を進むと、
あの日の街角、
遠い日の思い出、
笑い声、
懐かしき顔。

過去がべたり。

はるか遠く、続く青空。
すべてを抱えて、いつも吹く風。
続いていく、これから。

未来もべたり。

潮の香り。
熱い砂浜。
波の音、たゆたい。
蜃気楼、プカプカ。

空間がぐにゃり。

ふぅー。

時間と空間が溶け、
日向と日陰の狭間が開き、
蝉の声、一瞬鳴り響いたあと、
吸い込まれる静寂。

あー、なるほど。
あーー、なるほど。
これで、あの世がつながるわけだ。

……

ただ、波の音が聞こえる。
ただ、風の音が聞こえる。
ただ、ただ……



「おーい。元気だよー!」

私は、
ただ、そう呼びかけた。

ただ、波の音が聞こえる。
ただ、風の音が聞こえる。
ただ、ただ……

……ハァ。
短く近い吐息。



止まった時の中。
滴る汗。
静かな浜風。
風鈴の音。
どこかで。

小さな時が、
また、動き始める。

クーラーの効いたカフェ。
麦茶のグラスの水滴。
スイカの香り、青く。
グラスの氷がカラン。
口の中の甘いアイス。

ふぅー。

海辺のカフェで涼み、
自分の体と時空を取り戻す。
フッと思考が戻ってきたけど、
まだ、もう少し、
とろり溶ける夏の中、
私は波の音にたゆたっていたい。

波の音と風の音。
熱気とクーラー。
喧騒と静寂。
日向と日陰。
天国と地獄。
この世とあの世。
過去と未来。
永遠と刹那。
あなたと私。

狭間にて。
もう少し。

Fin
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