【朗読】秋鮭デリバリー 作:トガシテツヤ 語り:テトミヤ【現代ファンタジー】

概要

トガシテツヤ様の『秋鮭デリバリー』を読ませていただきました。

ゴミ拾いを手伝ったからか、時期になると毎年ヒグマが家に秋鮭を届けに来てくれるようになった、オホーツクの山の中に住む私の話。

トガシテツヤ様、素敵なお話をありがとうございました!

語り手: テトミヤ
語り手(かな): てとみや

Twitter ID: teto_miya
更新日: 2024/10/07 06:19

エピソード名: 秋鮭デリバリー

小説名: 秋鮭デリバリー
作家: トガシテツヤ
Twitter ID: Togashi_Design


本編

 ――ピンポーン

 私は「はぁ……」と大げさに溜息をつく。仕事の〆切間近で集中している時の「ピンポーン」ほど、イラつくものはない。作業が強制中断される。 郵便屋さんや宅配便の人はいいのだ。まぁもっとも、出来るだけ「ピンポーン」を聞きたくないので、営業所で受け取ることがほとんどだが。

「はいはい……」

 ドタドタと玄関へ行き、ガラッと乱暴に引き戸を開けると、2メートルを超えるであろう、ヒグマが立っていた。クマは「ん」と、手に持っている秋鮭(アキサケ)を差し出す。

「もうそんな時期か」
「斜里も網走も、海岸沿いは車で一杯や」

 クマが迷惑そうに言う。

 9月から10月にかけて、産卵のために戻って来る秋鮭を狙い、オホーツク海には釣り人達が殺到する。違法駐車のオンパレードで、アイドリングストップなんて言葉は一切通用しない。私にとってはこの時期の風物詩で何とも思わないが、野生動物達にとっては迷惑極まりないだろう。

「あとでゴミ拾い、手伝ってな」
「ああ、任せろ」

 釣り人達の置き土産は、大量のゴミ。野生動物達がそのゴミをせっせと拾っていることを、人間達は知らない。
 私はたまにゴミ拾いを手伝う。最初、動物達は私のことを警戒して近寄って来なかったが、声をかけてくれたのはこのヒグマだ。てっきり「人間ってやつは」とか、文句を言われるものだと覚悟したが、

「風邪引くなや」

 と、まるで近所のおっさんみたいなことを言うもんだから、あやうく笑いそうになった。

 それからは、そのクマは毎年私の家に秋鮭を届けに来てくれる。動物達の間で、「オホーツクの山の中に住んでる、変わり者の人間がいる」と、私のことは有名なようで、家はすぐに分かったらしい。

 初めて来た時、力任せに玄関のドアを開けようとするので、「ここのボタンを押して、30秒くらい待って」と教えたら、「めんどいわ。勝手に入ってええやろ」と言うので、「いきなり家の中にクマが入って来たらビックリするから、それだけは頼むよ」とお願いし、クマは渋々承諾した。

「〆切の方はどうや?」
「相変わらず」
「そんな生活、楽しくないやろ」

 そう言うと、クマはくるりと背中を向け、のっしのっしと歩いて行った。まるで岩のような背中だ。

 今日も聞き忘れた。

 どうして大阪弁なのかを。
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