日々是朗読【雪溶け】〈恋本麻由〉

概要

何かに押さえつけられていたり、思うように物事が進まなかったり。
自分ではどうしたらいいのかわからなくても、力を振り絞って前を向き、歩みを進めることができれば道は開ける。
そんなことを感じた作品でした。

語り手: 読書人流水
語り手(かな): どくしょじんりゅうすい

Twitter ID: bass_ryu_z
更新日: 2024/09/15 19:35

エピソード名: 雪溶け

小説名: 雪溶け
作家: 恋本麻由
Twitter ID: @Koimoto_Mayu


本編

手先が悴む。
寒くて冷たくて、息を吐けば白く曇った。
白い道をさくさくと、音を立てながら歩いていく。どれだけ着込んでも、すり抜けるように風が突き刺さった。
思わず肩を震わせるがそれでも前へ進む。
歩いても歩いても先が見えない。
一面真っ白に覆われているが、空は灰色だった。
足元も震えてとうとう前へ進むことが出来なくなった。ここから逃げたくても体が思うように動いてくれない。
目の前が真っ暗となり、世界に1人取り残されたようで怖くなった。

やがて立っていることもできなくなり、そのまま地面へと突っ伏した。震えが止まらず、苦しい、助けてほしいと思う気持ちでいっぱいになった。
地上にいるはずなのに、水中に突き落とされたようなそんな感覚に陥る。
うまく息が吸えなくて、喉元を押さえた。

しばらく小さく丸まっていると、ほんの少しだけ光が差し込んできた。頭皮に当たってポカポカする。
ゆっくりと顔をあげて少しだけ前を見た。
先程までの白い世界が崩れ始めようとしていた。
体に力を入れて、必死に起きあがろうとする。
でも、白いものが邪魔をして滑ってしまった。
顔は冷たく、そして痛みが走る。
それでも腕に力を入れて地面を這いずった。

やがて白いものが見えなくなると、少しずつだが足に力を入れて立ち上がった。
ゆっくりとだが前へ向かって歩き続ける。

どんどん先に進むと光に包まれた。
眩しくて思わず目を瞑った。

そして再び目を開けた先には
桜の木が咲き誇っていた。
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