【朗読】星の彼方へ 作:ジップの本棚 語り:テトミヤ【SF】
概要
ジップの本棚様の『星の彼方へ』を読ませていただきました。
遠く離れた植民惑星に資材を運ぶ為に長い長い時間一人で宇宙を航海し、やっと無事に辿り着いた星から再び同じ時間を掛けて地球に向けて旅立つ宇宙輸送船のクルーのお話。
ジップの本棚様、素敵なお話をありがとうございました!
遠く離れた植民惑星に資材を運ぶ為に長い長い時間一人で宇宙を航海し、やっと無事に辿り着いた星から再び同じ時間を掛けて地球に向けて旅立つ宇宙輸送船のクルーのお話。
ジップの本棚様、素敵なお話をありがとうございました!
語り手: テトミヤ
語り手(かな): てとみや
Twitter ID: teto_miya
更新日: 2024/08/24 22:48
エピソード名: 星の彼方へ
小説名: 星の彼方へ
作家: ジップの本棚
Twitter ID: QUANTUM41422049
本編
漆黒の宇宙空間......
彼方の果てで、私が目にするのは何なのだろう。
長い孤独の中で私は、いずれ訪れるであろうささやかな未来に思いを馳せる。
宇宙航行用の新しい推進ドライブは、スペースシップを光の速度にまで近づけたが、星の行き来をするには、まだまだ宇宙は広大過ぎた。
なにしろ人類が移住を計画している惑星まで、四光年以上離れているのだ。
私の宇宙輸送船に積み込まれているのは、ワームホールを人工的に作り出す、巨大な設備の一部だ。
ワームホールとは、異なる時空を繋ぐ宇宙の穴のようなもので、ここを通れば、光の速度をも越えた、宇宙空間での移動が可能になる。
今、人類はワームホールを人工的に発生させる、宇宙ステーションの建造を、地球と遥か彼方の惑星の両方で押し進めていた。
私の仕事は、地球で建造したステーション区画の一部を、彼方の惑星へ輸送する事だった。
このステーションが完成すれば、ワームホールを使って、短時間で惑星間の往来が可能となり、多くの物資と人間を地球から送り込む事ができる。
これは、惑星間に時空の直通トンネルを通すという,人類の壮大な公共事業だった。
けれど、この宇宙のインフラ整備には、まだ長い年月がかかるだろう。
きっと何年......いや何十年も。
何度目かのコールドスリープが終わり、私は、ゆっくりと目を覚ました。
思考と体温が徐々に回復していく。
地球から旅立って、どのくらいが経ったのだろうか......
もう、記憶さえも曖昧になっている。
コンピューターで記録を確認すると、前回のスリープから25日が経っていた。
少し早めに起こされたな。
そう疑問に思っていると、ナビゲーションコンピューターから、地球の管理局からのメッセージを知らされた。予定より早めのオープンスリープは、これが理由だったのだろう。
地球から定期的にメッセージは届くのだが、今回はいつもより早いのが気になる。
もしかしたらなにか緊急の用件があるのかもしれない。
私は、少しだけ躊躇しながらも、タッチパネルを操作した。
ディスプレイにメッセージのファイルが表示されていく......
最優先とされているのは、航行プログラムのアップデート更新を促す内容だった。
それと、親しい人たちからのメッセージがいくつか。
アップデートデータの内容確認より先に、私の愛する人たちからのメッセージに目を通す。
個人的メッセージのファイルは、ついでなのだろうが、私にはこちらの方が、ずっと嬉しかった。
心安らぐひとときを過ごしたあと、最優先とされるメッセージに目を通した。
宇宙航海士失格だな......と、私は思った。
気持ちを切り替えてメッセージを開くと、内容は輸送船の航路変更だった。
輸送船の進路方向に新しく発見された惑星があるから、それを利用してスイングバイを行え、という指示だ。
スイングバイとは, 天体の公転速度と、重力を利用することで、宇宙船の速度を上げる事ができる宇宙間航行方法だ。簡単に言うと、回転する惑星に振り回されて、より早く、より遠くへ放り投げられる、という事だ。その為には、惑星の軌道と回転速度を精密に計算して、最適な位置から最適なタイミングで宇宙船を移動させなければならない。
成功すれば、光を越える事はできないまでも、今より宇宙船の速度は上がり、惑星への到着も早まる。燃料や生命維持に必要な様々な物資にも余裕がでるだろう。
補給もままならない宇宙では、これは重要な事だった。
アップデートデータは、この新しい惑星の引力圏内への、コース修正シークエンスを最適化するものだった。最も効率的な進路変更のタイミングは決まっている。
私は、それまでに準備を終わらせなければならなくなった。
輸送船は、スイングバイに利用する惑星に進路を変えた。
作業に時間はかかったが、輸送船の様々な調整や変更を、なんとか終えることができた。
このあとは、引力圏内に接近する数日前まで、コールドスリープをすべきなのだが、あの狭いプラスチックとセラミックで造られた装置に、中々入る気になれずにいた。
植民惑星到着まで、生命維持に必要な食料や物資に余裕をもたせるには、活動時間をできるだけ減らした方がいい。
その事は頭では分かっている。
けれど、感情はそれを拒否しているのだ。
いろいろ悩んだ末、私はコールドスリープを先延ばしする事にした。
数日は自由に過ごすのだ。
私にはそれができたし、その権利もあるはずだ。
こうして私は,宇宙でちょっとしたサマーバケーションを楽しむ事にした。
好きな音楽を聴き、好きな物語を読み、映画を見た。
そして好きな時に寝て、眠りたいだけ眠った。
まるで子供の夏休みだ。
数日は楽しかった。
けれどいつからか、私は深い孤独を感じるようになっていた。
やがて、多くの事に飽き始め、私は再びコールドスリープをすることにした。
私の短い夏休みは、終わりを告げた。
次に目を覚ましたのは65日後。
スインバイを成功させ、日程を短縮させた。
それからコールドスリープを繰り返しつつ、2年と5ヶ月で目的の星系にたどり着く事ができた。
もう輸送船の展望ルームからでも、目指す星を見ることができる。
星系の恒星に照らされたその星は、青く輝いていた。
まるで宇宙に浮かぶ宝石だ。
私はどういうわけか、どうしようもない懐かしさを覚え、気がつくと涙を流していた。
あれは、私の生まれた星ではないのに。
でも、なぜか私は、あの星を地球だと感じていた。
数日後、私の船は植民星の静止軌道上にたどり着いていた。
軌道上では、先に到着していた工作船団がワームホール衛星ステーションの建造を進めている。
その外観は、ステーションと呼ぶにはまだまだで、巨大な魚の骨といった印象だ。
完成にはまだ多くの時間を要するだろう。
こうして私は、工作船団に荷物の引き渡しを終えた。
今度は、地球に戻る為の航海の始まりだ。
来た時と同じ様に、何年もかけて地球に戻る。
植民惑星の開発を進めている人たちから、星の調査データや、様々な鉱物や植物のサンプルを受け取ると、私の輸送船は地球に向けて出発した。
恒星系を出る少し前に、同タイプの輸送船とすれ違い、航海の無事を祈るメッセージを交換する。
モニター越しに植民惑星に向かう輸送船を見ていたら、あれに乗っているのは別の......そう、もうひとりの私だなと思った。
相対性理論や多次元宇宙論、時間を越えるとか、そんな大げさで難しい話ではない。
ただそう思ったのだ。
あの輸送船の乗員も、宇宙の航海の途中で、私のように短いサマーバケーションを楽しんだのだろうか?
数日後、私の輸送船は恒星系を離脱しようとしていた。
望遠カメラに映る植民惑星も、ずいぶん小さくなっている。
起きている時間は終わった。
もう寝る時間だ。
輸送船が地球に戻ったときは、私が知ってる人たちも、私の事を知る人たちも、随分と少なくなっているだろう。
もしかしたら、私を覚えているのはコンピュータのデータベースだけになっているかもしれない。
少し寂しいが、それは旅立つ前に覚悟していた事だった。
それよりも、何故か私は、この地球に似た惑星から離れたくない気持ちが強くなっていた。
故郷から離れる......そんな感覚だ。
私は、後ろ髪を惹かれる思いでコールドスリープ装置に入った。
意識が遠のき、私は静かに眠りにつく。
長い、長い眠りに......
彼方の果てで、私が目にするのは何なのだろう。
長い孤独の中で私は、いずれ訪れるであろうささやかな未来に思いを馳せる。
宇宙航行用の新しい推進ドライブは、スペースシップを光の速度にまで近づけたが、星の行き来をするには、まだまだ宇宙は広大過ぎた。
なにしろ人類が移住を計画している惑星まで、四光年以上離れているのだ。
私の宇宙輸送船に積み込まれているのは、ワームホールを人工的に作り出す、巨大な設備の一部だ。
ワームホールとは、異なる時空を繋ぐ宇宙の穴のようなもので、ここを通れば、光の速度をも越えた、宇宙空間での移動が可能になる。
今、人類はワームホールを人工的に発生させる、宇宙ステーションの建造を、地球と遥か彼方の惑星の両方で押し進めていた。
私の仕事は、地球で建造したステーション区画の一部を、彼方の惑星へ輸送する事だった。
このステーションが完成すれば、ワームホールを使って、短時間で惑星間の往来が可能となり、多くの物資と人間を地球から送り込む事ができる。
これは、惑星間に時空の直通トンネルを通すという,人類の壮大な公共事業だった。
けれど、この宇宙のインフラ整備には、まだ長い年月がかかるだろう。
きっと何年......いや何十年も。
何度目かのコールドスリープが終わり、私は、ゆっくりと目を覚ました。
思考と体温が徐々に回復していく。
地球から旅立って、どのくらいが経ったのだろうか......
もう、記憶さえも曖昧になっている。
コンピューターで記録を確認すると、前回のスリープから25日が経っていた。
少し早めに起こされたな。
そう疑問に思っていると、ナビゲーションコンピューターから、地球の管理局からのメッセージを知らされた。予定より早めのオープンスリープは、これが理由だったのだろう。
地球から定期的にメッセージは届くのだが、今回はいつもより早いのが気になる。
もしかしたらなにか緊急の用件があるのかもしれない。
私は、少しだけ躊躇しながらも、タッチパネルを操作した。
ディスプレイにメッセージのファイルが表示されていく......
最優先とされているのは、航行プログラムのアップデート更新を促す内容だった。
それと、親しい人たちからのメッセージがいくつか。
アップデートデータの内容確認より先に、私の愛する人たちからのメッセージに目を通す。
個人的メッセージのファイルは、ついでなのだろうが、私にはこちらの方が、ずっと嬉しかった。
心安らぐひとときを過ごしたあと、最優先とされるメッセージに目を通した。
宇宙航海士失格だな......と、私は思った。
気持ちを切り替えてメッセージを開くと、内容は輸送船の航路変更だった。
輸送船の進路方向に新しく発見された惑星があるから、それを利用してスイングバイを行え、という指示だ。
スイングバイとは, 天体の公転速度と、重力を利用することで、宇宙船の速度を上げる事ができる宇宙間航行方法だ。簡単に言うと、回転する惑星に振り回されて、より早く、より遠くへ放り投げられる、という事だ。その為には、惑星の軌道と回転速度を精密に計算して、最適な位置から最適なタイミングで宇宙船を移動させなければならない。
成功すれば、光を越える事はできないまでも、今より宇宙船の速度は上がり、惑星への到着も早まる。燃料や生命維持に必要な様々な物資にも余裕がでるだろう。
補給もままならない宇宙では、これは重要な事だった。
アップデートデータは、この新しい惑星の引力圏内への、コース修正シークエンスを最適化するものだった。最も効率的な進路変更のタイミングは決まっている。
私は、それまでに準備を終わらせなければならなくなった。
輸送船は、スイングバイに利用する惑星に進路を変えた。
作業に時間はかかったが、輸送船の様々な調整や変更を、なんとか終えることができた。
このあとは、引力圏内に接近する数日前まで、コールドスリープをすべきなのだが、あの狭いプラスチックとセラミックで造られた装置に、中々入る気になれずにいた。
植民惑星到着まで、生命維持に必要な食料や物資に余裕をもたせるには、活動時間をできるだけ減らした方がいい。
その事は頭では分かっている。
けれど、感情はそれを拒否しているのだ。
いろいろ悩んだ末、私はコールドスリープを先延ばしする事にした。
数日は自由に過ごすのだ。
私にはそれができたし、その権利もあるはずだ。
こうして私は,宇宙でちょっとしたサマーバケーションを楽しむ事にした。
好きな音楽を聴き、好きな物語を読み、映画を見た。
そして好きな時に寝て、眠りたいだけ眠った。
まるで子供の夏休みだ。
数日は楽しかった。
けれどいつからか、私は深い孤独を感じるようになっていた。
やがて、多くの事に飽き始め、私は再びコールドスリープをすることにした。
私の短い夏休みは、終わりを告げた。
次に目を覚ましたのは65日後。
スインバイを成功させ、日程を短縮させた。
それからコールドスリープを繰り返しつつ、2年と5ヶ月で目的の星系にたどり着く事ができた。
もう輸送船の展望ルームからでも、目指す星を見ることができる。
星系の恒星に照らされたその星は、青く輝いていた。
まるで宇宙に浮かぶ宝石だ。
私はどういうわけか、どうしようもない懐かしさを覚え、気がつくと涙を流していた。
あれは、私の生まれた星ではないのに。
でも、なぜか私は、あの星を地球だと感じていた。
数日後、私の船は植民星の静止軌道上にたどり着いていた。
軌道上では、先に到着していた工作船団がワームホール衛星ステーションの建造を進めている。
その外観は、ステーションと呼ぶにはまだまだで、巨大な魚の骨といった印象だ。
完成にはまだ多くの時間を要するだろう。
こうして私は、工作船団に荷物の引き渡しを終えた。
今度は、地球に戻る為の航海の始まりだ。
来た時と同じ様に、何年もかけて地球に戻る。
植民惑星の開発を進めている人たちから、星の調査データや、様々な鉱物や植物のサンプルを受け取ると、私の輸送船は地球に向けて出発した。
恒星系を出る少し前に、同タイプの輸送船とすれ違い、航海の無事を祈るメッセージを交換する。
モニター越しに植民惑星に向かう輸送船を見ていたら、あれに乗っているのは別の......そう、もうひとりの私だなと思った。
相対性理論や多次元宇宙論、時間を越えるとか、そんな大げさで難しい話ではない。
ただそう思ったのだ。
あの輸送船の乗員も、宇宙の航海の途中で、私のように短いサマーバケーションを楽しんだのだろうか?
数日後、私の輸送船は恒星系を離脱しようとしていた。
望遠カメラに映る植民惑星も、ずいぶん小さくなっている。
起きている時間は終わった。
もう寝る時間だ。
輸送船が地球に戻ったときは、私が知ってる人たちも、私の事を知る人たちも、随分と少なくなっているだろう。
もしかしたら、私を覚えているのはコンピュータのデータベースだけになっているかもしれない。
少し寂しいが、それは旅立つ前に覚悟していた事だった。
それよりも、何故か私は、この地球に似た惑星から離れたくない気持ちが強くなっていた。
故郷から離れる......そんな感覚だ。
私は、後ろ髪を惹かれる思いでコールドスリープ装置に入った。
意識が遠のき、私は静かに眠りにつく。
長い、長い眠りに......