朗読【脱力系ごはん】

概要

夏になると実家の食卓にあがってた、じゃがいもの塩ゆで。
今はもう食べれない、その理由とは?

語り手: 白河 那由多
語り手(かな): しらかわ なゆた

Twitter ID: nayuta9333
更新日: 2024/08/08 16:35

エピソード名: 脱力系ごはん

小説名: 脱力系ごはん
作家: はちゃこ
Twitter ID: hacha_upa


本編

休日のお昼ごはん、と言えば、あなたは何を思い浮かべるだろうか。
家族に「なんか適当で」と言われ、
出せば出したで「えー、またこれぇ?」と言われる脱力系ごはん。

私の生まれは北海道の田舎だったので、
夏になるとジャガイモの塩ゆでが定番だった。
「はい、イモが通るよー」の母の一声で、各々食卓につく。
大きな鍋いっぱいに、茹でたばかりの熱々のジャガイモ。
まさにジャガイモがメインというか、むしろオンリー。
もしかしたら、インゲン豆の煮物ぐらいはあったかもしれない。
でもそれだって、昨日の晩ごはんの残りだ。

夏に採れる新じゃがは、皮すらむかれていないことがほとんど。
上にのせるはバターじゃなくて、安いマーガリン。
イモを箸でほろほろと崩し、
マーガリンを染みこませてから頬張ると、
ふんわりした塩っけが口の中いっぱいに広がる。
冷たい牛乳で流しこんだら、
それだけで無限に食べることができた。

でももし、大人になったいま、実家に帰省しても、
この大鍋のジャガイモが食卓にのぼることはないだろう。
結婚して家庭のある、今の私の存在は、実家ではすでに「非日常」。
たまに珍しくやってきたお客に、脱力系ごはんは出てこない。
婿や孫がいればなおさら、
あれもこれもとたくさんの皿で食卓が埋まってしまう。
塩ゆでのジャガイモの出番なんて、きっと一生回ってこない。

大人になったから、わかる。
あれは、私が「この家の子ども」だったから食べることのできた
思い出ごはんだったのだと。
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