抹茶パフェの食レポ
概要
タイトルに惹かれてこのお話を読んでみました。抹茶パフェを食べたくなるような動画にしたくて抹茶パフェのフリー素材を選んでいると自分が抹茶パフェを食べたくなってきました❗
語り手: すー
語り手(かな):
Twitter ID: kanemoti0504
更新日: 2023/06/02 21:46
エピソード名: 抹茶パフェ
小説名: 抹茶パフェ
作家: 江山菰
Twitter ID: Petalodepersiko
本編
薄暗いその店には、私のほかは一人も客がいなかった。
椅子やテーブルはチープなスタックタイプのプラスチックでぱっとしないのに、細かい装飾彫りのある紫檀《したん》の衝立《ついたて》や飾り棚があり、翡翠《ひすい》の小さな七福神が飾られている。なんともちぐはぐな雰囲気だ。
私はメニュー表にオススメの文字が踊る抹茶パフェを頼むことにした。
三分ほどでパフェが運ばれてきた。
抹茶のアイスクリームはなく、たっぷりと豪勢なソフトクリームと白玉、数粒の金時豆の和風グラッセ……要するに甘納豆が盛り付けられている。底に敷かれているのはコーンフレークではなくて玄米フレーク。飾りに最中の皮が刺さっていた。
特筆すべきは、色だ。
抹茶のみどりが、とても薄い。
レタスの内側の葉のような儚い色だ。
私はがっかりした。
抹茶の配合量が少ないなんて、抹茶好きには許しがたいことだ。あの葉っぱの主張がガツンと利いたみどりがないと、気分が上がらない。
私の落胆が顔に表れていたのだろう。
若い店主はにこにこした。
「うちの抹茶パフェ、色が薄いでしょう」
「あっ……はい」
「皆さん、びっくりなさるんですよ。みどりが薄いって」
彼は楽しそうだった。
「召し上がったら、もう一度びっくりなさると思いますよ」
怪訝な気持ちで私は尖ったソフトクリームのてっぺんをパフェ用スプーンですくいとり、口へ運んだ。
その口を閉じて味わって一秒。
つい、んっと声がでた。
色は薄いのに、香りもお茶の味もしっかりしていて、なのに下品さがなくすっきりしている。
「これ、めちゃめちゃおいしいです!」
「でしょう」
店主はしてやったりという笑顔だ。
「使ってる抹茶が違いますから」
「確かに全然違います」
「うちはもともとお茶屋だったんです。茶道用の抹茶も取り扱いがありまして、それを使って作ってます」
「それで、色が薄くてもこんなにおいしいんですね」
「グラム一万円以上の抹茶使ってるんで、おいしくないと困ります」
私は面食らった。
「一万円?!」
「茶道用だと、まだまだ安い方ですよ。上見ると高いのはいくらでもありますから」
「うわあ……」
「普通の店のは、着色料と安い抹茶で作ってますから、色の濃さでは負けますけど、味では絶対に負けませんよ」
彼は胸を張った。
自慢する彼の表情にも口調にも、まったくいやみがない。聞いていて面白い。
こういうやり取りを幾度となく繰り返してきて、その度に彼は喜びを感じてきたのだろう。この、どう見ても流行っていない小さな茶店で。
そう思うと、この店の薄暗さも、自然の明るさで居心地がいい。
「いいお店ですね」
私は心からそう思った。
「ありがとうございます」
私は、パフェを食べ終え、満足すると同時に、これまで食べてきたその辺の抹茶ソフトにはもう戻れなくなってしまったのを感じた。しかし、全然寂しくはない。
私の舌は、進化したのだ。
メニューには、ほうじ茶や中国茶を使った美味しそうなものがズラリと並んでいる。
私は秘境にたどり着いた冒険者のように、探索欲の虜になった。ただ、お財布の中身と相談しなければならないが。
「また来ますね!」
「お待ちしております」
--了
椅子やテーブルはチープなスタックタイプのプラスチックでぱっとしないのに、細かい装飾彫りのある紫檀《したん》の衝立《ついたて》や飾り棚があり、翡翠《ひすい》の小さな七福神が飾られている。なんともちぐはぐな雰囲気だ。
私はメニュー表にオススメの文字が踊る抹茶パフェを頼むことにした。
三分ほどでパフェが運ばれてきた。
抹茶のアイスクリームはなく、たっぷりと豪勢なソフトクリームと白玉、数粒の金時豆の和風グラッセ……要するに甘納豆が盛り付けられている。底に敷かれているのはコーンフレークではなくて玄米フレーク。飾りに最中の皮が刺さっていた。
特筆すべきは、色だ。
抹茶のみどりが、とても薄い。
レタスの内側の葉のような儚い色だ。
私はがっかりした。
抹茶の配合量が少ないなんて、抹茶好きには許しがたいことだ。あの葉っぱの主張がガツンと利いたみどりがないと、気分が上がらない。
私の落胆が顔に表れていたのだろう。
若い店主はにこにこした。
「うちの抹茶パフェ、色が薄いでしょう」
「あっ……はい」
「皆さん、びっくりなさるんですよ。みどりが薄いって」
彼は楽しそうだった。
「召し上がったら、もう一度びっくりなさると思いますよ」
怪訝な気持ちで私は尖ったソフトクリームのてっぺんをパフェ用スプーンですくいとり、口へ運んだ。
その口を閉じて味わって一秒。
つい、んっと声がでた。
色は薄いのに、香りもお茶の味もしっかりしていて、なのに下品さがなくすっきりしている。
「これ、めちゃめちゃおいしいです!」
「でしょう」
店主はしてやったりという笑顔だ。
「使ってる抹茶が違いますから」
「確かに全然違います」
「うちはもともとお茶屋だったんです。茶道用の抹茶も取り扱いがありまして、それを使って作ってます」
「それで、色が薄くてもこんなにおいしいんですね」
「グラム一万円以上の抹茶使ってるんで、おいしくないと困ります」
私は面食らった。
「一万円?!」
「茶道用だと、まだまだ安い方ですよ。上見ると高いのはいくらでもありますから」
「うわあ……」
「普通の店のは、着色料と安い抹茶で作ってますから、色の濃さでは負けますけど、味では絶対に負けませんよ」
彼は胸を張った。
自慢する彼の表情にも口調にも、まったくいやみがない。聞いていて面白い。
こういうやり取りを幾度となく繰り返してきて、その度に彼は喜びを感じてきたのだろう。この、どう見ても流行っていない小さな茶店で。
そう思うと、この店の薄暗さも、自然の明るさで居心地がいい。
「いいお店ですね」
私は心からそう思った。
「ありがとうございます」
私は、パフェを食べ終え、満足すると同時に、これまで食べてきたその辺の抹茶ソフトにはもう戻れなくなってしまったのを感じた。しかし、全然寂しくはない。
私の舌は、進化したのだ。
メニューには、ほうじ茶や中国茶を使った美味しそうなものがズラリと並んでいる。
私は秘境にたどり着いた冒険者のように、探索欲の虜になった。ただ、お財布の中身と相談しなければならないが。
「また来ますね!」
「お待ちしております」
--了