【朗読】人間でありたいなどと
概要
人間であれと強要されているような、人間であらねばならぬと脅迫的に思っているような、人間でありたいとすがっているような。そんな誰にも知られずに葛藤する胸の内を深夜のコインランドリーという舞台に感じながら読みました。
語り手: 華音(かのん)
語り手(かな): かのん
Twitter ID: _kanon_vc_
更新日: 2023/06/02 21:46
エピソード名: 人間でありたいなどと
小説名: 人間でありたいなどと
作家: 彼方千尋(Kanata Chihiro)
Twitter ID: Cknkam1
本編
洗濯機が、死んでしまった。
大見得切って20年は使うと意気込んで買った洗濯機だったが、
たった5年で、あっけなく、うんともすんともいわなくなってしまった。
現在時刻は夜の11時。
死んでしまった洗濯機の前で、反応しないボタンを何度か押した。
笑える。
そもそも、なんで自分はこんな時間に洗濯機を回そうとして・・・。
そうか。今日は、いつもと違う日だった。
仕事から帰ってきてかばんを玄関に置き去りにし、
くたびれた革靴を投げ転がし、
部屋の明かりもつけぬまま、暫く太陽に愛されていない固い布団の上に、
私はその身を投げたのだ。
真っ暗な部屋で私は目を覚ました。
変な体勢で寝てしまったのか左半身が麻痺しており、節々に軽い痛みを感じる。
口の中もべたついていて生ぬるい。頭痛もした。不快な目覚めだ。
どうしようもない自己嫌悪。
なぜ自分は人並みの生活が、まともにできなかったのだろうか。
ただ家に帰り、革靴を普通に脱いで、かばんは部屋の中のあるべき場所において、
シャワーを浴び、晩飯を食べ、
ネットのくだらない記事や動画を見たりして、歯を磨いて、寝る。
その簡単な作業手順をこなすだけなのに。
どうして出来ない?
誰に見られているわけでもないのに、
自分の行動を自分自身に非難されていた。
いつもは、できていた。
できていたんだ。
なぜ、できていたんだ。
いつも私はどんな日を送っていたっけ。
ああ、そうか。
私の習慣。
通勤時間にワイヤレスイヤホンをスマートフォンにつないで、
街の五月蠅さが聞こえないくらいの音量で自分を消し去る曲をかけること。
肯定されるような、生きる意欲が湧くなような・・・そんな曲をかける。
だが、昨日スマートフォンの充電を忘れて眠ってしまったせいで、それができなかった。
念のため持ち歩いている充電器も、その充電を忘れてしまい、
ただの使い物にならない四角い何かになってしまっていた。重い。
誰かさんと同じじゃないかと聞くに堪えない自虐が浮かぶ。
今日は洗濯をしなければ、明後日着る服がなくなってしまう。
傍らに積まれた自分の抜け殻達をどうにかしなければ。
夜の11時、あと1時間で日付が変わり、明日が襲ってくる。
クローゼットの中から、しばらくつかっていなかった旅行鞄を引きずり出し、
汚れた抜け殻を詰めた。抜け殻の重さが肩にのしかかる。
私は未明の時が近づく街に出た。
家から駅までの道中に、コインランドリーの看板があったのを覚えていた。
家から10分ほど歩いたところ。
24時間営業のようで、そこだけわかりやすく光っていた。
終電を逃した酔っ払いをひっかける為に走るタクシーと何台もすれ違った。
いまこの広い道路の真ん中を歩いても、大丈夫なのではないかと考えた。
信号を無視して道路を渡った。
止まらなければいけないときに渡った。
快挙を成し遂げたというのに達成感も何もなく、子供じみた感情をもっている自分を恥じた。
ポケットに入れた小銭を手で触り枚数を確認する。これだけあればおそらく足りるだろう。
ガラス張りのコインランドリーの中は誰もいないようだ。
少しほっとして、私は自動ドアに認識されて中へ入った。
40分。
赤い電子表示が、洗濯の残り時間を知らせている。
私の抜け殻は、水を浴びせられ、ゴウンゴウンと回り始めた。
スマートフォンは家に忘れてしまった。
かといって、いちいち取りに帰るのも面倒に思えて、
私は奥に重ねてある丸椅子をひとつ借りて、
洗濯が終わるのを座って待つことにした。
39、38、とだんだんと時間は落ちていく。
残り時間の電子表示を指折るように一秒一秒数えていくと、時間はゆっくりと進んでいく。
私の抜け殻が、左へ、右へと玩具にされている様をみるのは面白かった。
昔、まだサンタクロースが存在すると考えていた年齢の時の話だが、
時間の進み方は平等ではないと思っていた。
好きなことをしていると、時間が経つのが早い。
それが体感ではなく、本当に早くなっていると思っていたのだ。
自分ひとりの世界を生きていた。
大人になることに憧れた。
リビングで両親が飲む酒はどのジュースよりも美味しそうに見えたし、
毎日提出しなければいけない宿題が大人にはないということに対して不平を漏らした。
真夜中にやっているテレビ番組の内容が気になった。
普段私の前ではあまり笑わぬ父が、大笑いする声が壁越しに聞こえた。
はやく大人になりたかった。
そこで考えた。
子供の頃に好きなことばかりしていれば、
時間の経過が早くなれば、それだけ早く大人になれるのでは、と。
宿題をせず遊んでばかりの私の言い訳だった。
実際は、時間を忘れていたせいなのだが。
逆に、やりたくないことをただやっているとき、
あるいはこれから起こる好きなことを待っている間は、
時間の経過はもどかしいほどにゆっくりと、それこそ実際10分しか経過していないのに20分経ったような感じがする。
いつのまにか社会人になっていた。
社会人になると、何をしていても時間の流れを早く感じるようになった。
好きなことをしていても、つまらないことをしていても、ほんとうにあっという間に時間は過ぎていく。
たまらない焦燥感だ。
生きるために、毎日毎日。社会のほんの小さな、なくても差し支えない歯車となり、
最低限の人間的生活をしているかどうかを他者に、自分自身に監視されている。
たいした経験値も得ていないのに、レベルだけが上がっていくRPG。
私が、私の顔を見ようともせずに通り過ぎていく。
30分。
赤い電子表示が、洗濯の残り時間を知らせている。
こんなに何もせずに、ただ洗濯機が洗濯をしているのを眺めているのははじめてだ。
私の抜け殻がジャブジャブと気持ちよさそうに洗われている。
小銭が余っていたので、近くの自動販売機からブラックコーヒーを購入した。
まるで泥を飲んでいるかのようだった。
口の中に広がるこの苦さはあの時と同じだ。
一昨日、疎遠になっていた母親から突然電話がきた。
誰か身内に何かあったのかと、私は少し緊張して電話を受けた。
「ニュースで見たんだけどね、
昔学校であんたのこといじめてた同級生の子。
高速道路で事故にあって死んじゃったって。」
・・・・・・何をいっている?
「お母さんね、よかったって思っちゃった。」
私は何も返さずにすぐに電話を切った。
叫びそうだった喉を押さえつけた。酷く吐き気がした。
何をいってるんだこいつは。
お前がどう思ったかなんて。
何かを期待しているような声色を思い出し、
人間をやめたい衝動にかられた。
その時も、口の中は泥をたべたように、
苔が生えたように気持ち悪かった。
20分。
赤い電子表示が、洗濯の残り時間を知らせている。
少し落ち着きを取り戻した。
洗濯機は、洗い方のモードを変更して私を飽きさせない。
私も洗濯されたい。と思った。
夜の時間はゆっくりと刻まれていき、
私はその暗闇に落ち着いたり、恐怖したり光に安心したりする。
座っているのが辛くなってきたので、コーヒーの空き缶をゴミ箱へ放り外に出た。
気持ちよくもないが、特に不快でもない風が流れている。
月は出ていたが、最後に見上げた時よりも、ずっと遠くに見えた。
厚い雲が空を覆っていたため、星はみえなかった。
こうして空を見上げるのも、久しぶりだ。
洗濯機がその仕事を終えたら、家に帰るころにはもう日付が変わっているだろう。
変な時間におかしな寝方をしてしまったので、次寝付くのには時間がかかりそうだ。
そうなれば月が見えなくなり、朝日がだんだんこの街に色をつけていく。
人間に戻らねばいけない日が近づくのを、私は震えるような気持ちで待つことになるだろう。
人間としては、眠らなければいけないんだろうに。
人間になりたくない自分がいる。
1人の夜は怖い。
誰かと共に、たとえば友人といれば。
眠ることなく朝を迎えた時は、いっそ気持ちよささえ感じるのに。
初めて友人と朝まで過ごした日は、他の人間よりも自分たちが勝っているような気持ちになった。
みんな心の中では、まともな人間になりたくないのだと勝手に解釈しては仲間意識を高めた。
その友人も、私をいじめた同級生と同様に今はもうこの世にいない。
その日からだったような気がする。朝が来ても、私の目には黒と白の世界にしか見えなくなった。
友人の遺影をみた瞬間。
交通事故だった。
10分。
赤い電子表示が、私に選択の残り時間を知らせている。
まもなく私の抜け殻はきれいに濡れて、あとは家に帰って干して。
かびた湿気につつまれながら、朝がくるのを待つんだ。
不思議と穏やかな気持ちだった。
私はなにも、今日だけおかしかったわけじゃないんだ。
ずっと、おかしかったんだ。
これが私なんだろう。
こんなおかしい私を好きだといってくれた恋人もいたが、
彼女は、私と一緒に生きることは選ばなかった。
どうか元気で、長生きしてほしいと思う。
最後の10分はあっけなく、
それこそ私を無視するように過ぎた。
家についたら、洗濯機の死骸が私を迎える。
役に立たない充電器を充電しなければいけない。
濡れた抜け殻が思ったより重くて、
夜は思ったより、優しいような気がした。
今日この日は、私にとって特別な日になるだろう。
マンションの屋上に忍び込んで、
自分が悪いことをしていると笑いながら
憎いほどに綺麗な朝日でも、みてやろう。
大見得切って20年は使うと意気込んで買った洗濯機だったが、
たった5年で、あっけなく、うんともすんともいわなくなってしまった。
現在時刻は夜の11時。
死んでしまった洗濯機の前で、反応しないボタンを何度か押した。
笑える。
そもそも、なんで自分はこんな時間に洗濯機を回そうとして・・・。
そうか。今日は、いつもと違う日だった。
仕事から帰ってきてかばんを玄関に置き去りにし、
くたびれた革靴を投げ転がし、
部屋の明かりもつけぬまま、暫く太陽に愛されていない固い布団の上に、
私はその身を投げたのだ。
真っ暗な部屋で私は目を覚ました。
変な体勢で寝てしまったのか左半身が麻痺しており、節々に軽い痛みを感じる。
口の中もべたついていて生ぬるい。頭痛もした。不快な目覚めだ。
どうしようもない自己嫌悪。
なぜ自分は人並みの生活が、まともにできなかったのだろうか。
ただ家に帰り、革靴を普通に脱いで、かばんは部屋の中のあるべき場所において、
シャワーを浴び、晩飯を食べ、
ネットのくだらない記事や動画を見たりして、歯を磨いて、寝る。
その簡単な作業手順をこなすだけなのに。
どうして出来ない?
誰に見られているわけでもないのに、
自分の行動を自分自身に非難されていた。
いつもは、できていた。
できていたんだ。
なぜ、できていたんだ。
いつも私はどんな日を送っていたっけ。
ああ、そうか。
私の習慣。
通勤時間にワイヤレスイヤホンをスマートフォンにつないで、
街の五月蠅さが聞こえないくらいの音量で自分を消し去る曲をかけること。
肯定されるような、生きる意欲が湧くなような・・・そんな曲をかける。
だが、昨日スマートフォンの充電を忘れて眠ってしまったせいで、それができなかった。
念のため持ち歩いている充電器も、その充電を忘れてしまい、
ただの使い物にならない四角い何かになってしまっていた。重い。
誰かさんと同じじゃないかと聞くに堪えない自虐が浮かぶ。
今日は洗濯をしなければ、明後日着る服がなくなってしまう。
傍らに積まれた自分の抜け殻達をどうにかしなければ。
夜の11時、あと1時間で日付が変わり、明日が襲ってくる。
クローゼットの中から、しばらくつかっていなかった旅行鞄を引きずり出し、
汚れた抜け殻を詰めた。抜け殻の重さが肩にのしかかる。
私は未明の時が近づく街に出た。
家から駅までの道中に、コインランドリーの看板があったのを覚えていた。
家から10分ほど歩いたところ。
24時間営業のようで、そこだけわかりやすく光っていた。
終電を逃した酔っ払いをひっかける為に走るタクシーと何台もすれ違った。
いまこの広い道路の真ん中を歩いても、大丈夫なのではないかと考えた。
信号を無視して道路を渡った。
止まらなければいけないときに渡った。
快挙を成し遂げたというのに達成感も何もなく、子供じみた感情をもっている自分を恥じた。
ポケットに入れた小銭を手で触り枚数を確認する。これだけあればおそらく足りるだろう。
ガラス張りのコインランドリーの中は誰もいないようだ。
少しほっとして、私は自動ドアに認識されて中へ入った。
40分。
赤い電子表示が、洗濯の残り時間を知らせている。
私の抜け殻は、水を浴びせられ、ゴウンゴウンと回り始めた。
スマートフォンは家に忘れてしまった。
かといって、いちいち取りに帰るのも面倒に思えて、
私は奥に重ねてある丸椅子をひとつ借りて、
洗濯が終わるのを座って待つことにした。
39、38、とだんだんと時間は落ちていく。
残り時間の電子表示を指折るように一秒一秒数えていくと、時間はゆっくりと進んでいく。
私の抜け殻が、左へ、右へと玩具にされている様をみるのは面白かった。
昔、まだサンタクロースが存在すると考えていた年齢の時の話だが、
時間の進み方は平等ではないと思っていた。
好きなことをしていると、時間が経つのが早い。
それが体感ではなく、本当に早くなっていると思っていたのだ。
自分ひとりの世界を生きていた。
大人になることに憧れた。
リビングで両親が飲む酒はどのジュースよりも美味しそうに見えたし、
毎日提出しなければいけない宿題が大人にはないということに対して不平を漏らした。
真夜中にやっているテレビ番組の内容が気になった。
普段私の前ではあまり笑わぬ父が、大笑いする声が壁越しに聞こえた。
はやく大人になりたかった。
そこで考えた。
子供の頃に好きなことばかりしていれば、
時間の経過が早くなれば、それだけ早く大人になれるのでは、と。
宿題をせず遊んでばかりの私の言い訳だった。
実際は、時間を忘れていたせいなのだが。
逆に、やりたくないことをただやっているとき、
あるいはこれから起こる好きなことを待っている間は、
時間の経過はもどかしいほどにゆっくりと、それこそ実際10分しか経過していないのに20分経ったような感じがする。
いつのまにか社会人になっていた。
社会人になると、何をしていても時間の流れを早く感じるようになった。
好きなことをしていても、つまらないことをしていても、ほんとうにあっという間に時間は過ぎていく。
たまらない焦燥感だ。
生きるために、毎日毎日。社会のほんの小さな、なくても差し支えない歯車となり、
最低限の人間的生活をしているかどうかを他者に、自分自身に監視されている。
たいした経験値も得ていないのに、レベルだけが上がっていくRPG。
私が、私の顔を見ようともせずに通り過ぎていく。
30分。
赤い電子表示が、洗濯の残り時間を知らせている。
こんなに何もせずに、ただ洗濯機が洗濯をしているのを眺めているのははじめてだ。
私の抜け殻がジャブジャブと気持ちよさそうに洗われている。
小銭が余っていたので、近くの自動販売機からブラックコーヒーを購入した。
まるで泥を飲んでいるかのようだった。
口の中に広がるこの苦さはあの時と同じだ。
一昨日、疎遠になっていた母親から突然電話がきた。
誰か身内に何かあったのかと、私は少し緊張して電話を受けた。
「ニュースで見たんだけどね、
昔学校であんたのこといじめてた同級生の子。
高速道路で事故にあって死んじゃったって。」
・・・・・・何をいっている?
「お母さんね、よかったって思っちゃった。」
私は何も返さずにすぐに電話を切った。
叫びそうだった喉を押さえつけた。酷く吐き気がした。
何をいってるんだこいつは。
お前がどう思ったかなんて。
何かを期待しているような声色を思い出し、
人間をやめたい衝動にかられた。
その時も、口の中は泥をたべたように、
苔が生えたように気持ち悪かった。
20分。
赤い電子表示が、洗濯の残り時間を知らせている。
少し落ち着きを取り戻した。
洗濯機は、洗い方のモードを変更して私を飽きさせない。
私も洗濯されたい。と思った。
夜の時間はゆっくりと刻まれていき、
私はその暗闇に落ち着いたり、恐怖したり光に安心したりする。
座っているのが辛くなってきたので、コーヒーの空き缶をゴミ箱へ放り外に出た。
気持ちよくもないが、特に不快でもない風が流れている。
月は出ていたが、最後に見上げた時よりも、ずっと遠くに見えた。
厚い雲が空を覆っていたため、星はみえなかった。
こうして空を見上げるのも、久しぶりだ。
洗濯機がその仕事を終えたら、家に帰るころにはもう日付が変わっているだろう。
変な時間におかしな寝方をしてしまったので、次寝付くのには時間がかかりそうだ。
そうなれば月が見えなくなり、朝日がだんだんこの街に色をつけていく。
人間に戻らねばいけない日が近づくのを、私は震えるような気持ちで待つことになるだろう。
人間としては、眠らなければいけないんだろうに。
人間になりたくない自分がいる。
1人の夜は怖い。
誰かと共に、たとえば友人といれば。
眠ることなく朝を迎えた時は、いっそ気持ちよささえ感じるのに。
初めて友人と朝まで過ごした日は、他の人間よりも自分たちが勝っているような気持ちになった。
みんな心の中では、まともな人間になりたくないのだと勝手に解釈しては仲間意識を高めた。
その友人も、私をいじめた同級生と同様に今はもうこの世にいない。
その日からだったような気がする。朝が来ても、私の目には黒と白の世界にしか見えなくなった。
友人の遺影をみた瞬間。
交通事故だった。
10分。
赤い電子表示が、私に選択の残り時間を知らせている。
まもなく私の抜け殻はきれいに濡れて、あとは家に帰って干して。
かびた湿気につつまれながら、朝がくるのを待つんだ。
不思議と穏やかな気持ちだった。
私はなにも、今日だけおかしかったわけじゃないんだ。
ずっと、おかしかったんだ。
これが私なんだろう。
こんなおかしい私を好きだといってくれた恋人もいたが、
彼女は、私と一緒に生きることは選ばなかった。
どうか元気で、長生きしてほしいと思う。
最後の10分はあっけなく、
それこそ私を無視するように過ぎた。
家についたら、洗濯機の死骸が私を迎える。
役に立たない充電器を充電しなければいけない。
濡れた抜け殻が思ったより重くて、
夜は思ったより、優しいような気がした。
今日この日は、私にとって特別な日になるだろう。
マンションの屋上に忍び込んで、
自分が悪いことをしていると笑いながら
憎いほどに綺麗な朝日でも、みてやろう。