朗読【ただようクジラ】

概要

私がクジラになって……
私がクジラになって……
私がクジラになって…
私は記憶の海をただようクジラ。

語り手: 白河 那由多
語り手(かな): しらかわ なゆた

Twitter ID: nayuta9333
更新日: 2024/03/10 18:51

エピソード名: ただようクジラ

小説名: ただようクジラ
作家: 浜風 帆
Twitter ID: @HamakazeHo


本編

まだ私がクジラになって間もなかった頃

何もわからなくて、ただそこに浮かんでいた

まだ私がクジラになって間もなかった頃

みんなの呼ぶ声がしてただよっていた

まだ私がクジラになって間もなかった頃

「おやすみ」という最後の言葉を聞いて、

「人間」だった頃のことを少し思い出した。

「おはよう」と言われて始まった記憶の海。

そこは何ともあたたかくて、

すべての希望と、全ての不安が、

やさしさに包まれた海だった。

私はクジラになってプカプカ浮かんでいる。

誰かが呼んでいるけど、

呼ばれたのに何もできなくて、

ごめんね。

私ができるのは、ただこの大きな体を寄せて

こころのそばにいること。

凍えた海の水をすべて飲み干すことはできないし、

わたしにできるのは一緒にいるということだけ。

……ねえ、寒いよ、ここは。

あたたかい所へ一緒に行こう。



私はクジラになってから、

思い出してくれた記憶の海をただよう。

冷たい海、あたたかい海、辛い海、やさしい海、

いろんな気持ちの混じり合った海を、

すべての思いを飲み込んで、

私はプカプカただよっていく。

私がクジラになって……

私がクジラになって……

私がクジラになって……

やっと空の飛び方がわかった頃、

きっと「さよなら」という言葉がやってくる。

私が大きな体を持ち上げて、

グワっと空にたびだつとき、

そのときは、

きっと満足してるはずだから、

もう悲しくはないんだよ。



私は記憶の海をただようクジラ。

その日が来るまでただようクジラ。

一緒に、プカプカ、ただよう、クジラ。


Fin
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