【朗読】星が輝くようにそしてキミが星になれ
概要
死ねない少年と涙を流せないアンドロイドの果てしない旅のお話。
語り手: kuro
語り手(かな): くろ
Twitter ID: shirokuromono96
更新日: 2024/02/25 11:56
エピソード名: 星が輝くようにそしてキミが星になれ
小説名: 星が輝くようにそしてキミが星になれ
作家: わか
Twitter ID: 1975_kaz
本編
世界が無風になる25時
今日もキミはこの丘で膝を抱えて泣いていた
ここは星に手が届く一番近い場所
あの輝きを浴びながらそれでも涙の雫を落とすキミ
「ねぇ、どうしてキミはいつもここでこの時間に泣いているんだい」
たまらず声をかけてしまった
「ボク?ボクが誰かなんてそんな些細な事はどうでもいいじゃないか」
「それよりもキミが流すその涙の方がよほど重要な事さ」
「ボクはね、いつもここでキミを見ていたんだよ」
「膝を抱えて、まるでこの世界にたった一人ぼっちでいるようなキミをね」
矢継ぎ早に言葉を繰り出すボクにどんな感情を抱いたのだろう
ようやくキミはその重い口を開いた
「君の言う通りさ。この世界に僕はたった一人きり…戦争が何もかも奪ってしまったよ。家族も友達も夢も希望も」
「でも僕は死ねない体なのさ。もちろん病気だよ。成長の時間が止まってしまっているのさ。正確には死のうと思えば死ねるけど、僕にはそんな勇気の欠片もない」
「死ぬ勇気のない僕はいつか見ていたあの星の輝きの下で星の足跡を追いながらただ涙を流す事しか出来ないんだ」
「そうなんだ」
それきりキミはまたその重たい口を閉ざした。
涙を流す
その行為さえボクには出来ない
だからそんなにもボクはキミを気になるんだろうか
造られた頬をひとなでして
そしてキミの横に、同じように膝を抱える
「ボクもね、同じさ。死ねない体なんだ。正確にはプログラムされた時間が終えるまでは」
「プログラム?君はロボットかい?僕の、僕らの世界を奪っていったあのロボットかい?」
「そうだよ、ボクはロボット。正確にはアンドロイドと呼ばれるらしいね。別に特段キミに対して敵意がある訳じゃない」
「人間狩りと呼ばれる時代はもう終わったしボク個人としては
あまりそんな事には興味がない。」
「じゃあ君は一体僕に何の用があってここにいるんだ?」
キミの語気が少し荒くなる。
心拍数も上がっているようだ。
「ごめんね、不快な思いをさせて。ただボクはキミが流すその涙に興味があるんだ。ボクには涙を流せないから」
それきりまたキミは口をつぐんでしまった。
そうしてどれ程の時が過ぎただろう。
遠くの方から汽笛のような音が聞こえてきた。
「銀河鉄道だ」
銀河鉄道。それは星と星を往き来する旧人類が長い刻をかけても発見出来なかった異星文明の象徴。
ボクの中に蓄積されてるデータベースにその汽笛の音がインストールされていた。
だんだんと近付いてくるその汽笛はやがてボクらの目の前で緩やかに停まった。
「これが銀河鉄道……」
キミはまるで信じられないと言ったような眼差しでボクと列車を交互に見渡す。
「乗ってみようよ」
ボクはキミの返事も待たずに列車へ乗り込む。
「えっ?えっ?」
戸惑うキミに焦れったくなりボクは強引にキミの手を掴み引っ張った。
誰も乗っていない列車はボクたちを飲み込んで星の海に向かって走り出す。
それからボクたちは様々な星を巡り、降り立ち、生態系を見つけては調査した。
キミは死ぬ方法を探して。
ボクは涙を流す方法を探して。
やがて銀河鉄道は銀河の最果てまでボクらを運んだ。
「ここが最果ての星…」
そこはまるでボクらが今まで見たことのないような超高度文明に発展した星だった。
あらゆる病気が治り、あらゆる悩みが消え、あらゆる願いが叶い、あらゆる生態系が住んでいた。
例えれば天国のような。
例えれば神の星のような。
ここなら二人の願いが叶う。
でも何故だろう、この星の住人からは笑顔が見られない。
こんなにも文明が発達して便利な星なのに。
どちらともなく言葉なく顔を見合わせた。
そうしてボクらは銀河鉄道へ踵を返した。
何故?
願いが叶うのに?
誰も乗ってない二人だけの貸し切り列車は星を背にして走り出す。
ギシリ、と深いため息と共に簡素な席にもたれ掛かりやがてキミがポツリと言った。
「あの人達は本当に生きているのだろうか?」
ボクは少し思考を巡らせてから答えた。
「生きてはいたよ。でも生きるってなんだろうか?」
ボクらはあんなにも生気がなく輝く瞳を持ち合わせていない存在を見たことがなかった。
列車の窓を開け少し首を出し遠ざかっていく奇跡の星を眺めた。
眩しいほどに輝く星は今では監獄のように見える。
「ねぇ、キミ」
ボクはきっとボクと同じ考えであろうキミへ問いかける。
「ボクと旅をしないか?幸か不幸か、ボクらにはまだ時間がある。もしかしたら別の宇宙、別の銀河鉄道があるかも知れない」
長い星めぐりの間にボクらはなんとなく自分の願いが変わっていくのを感じていた。
列車は旅立ちの駅に滑り込むように、そしてボクらが出会ったあの丘へ静かに車輪を下ろした。
奇しくも25時。
風が吹いていた。
やがてポツリ、ポツリと空から雨が降ってきた。
ボクの頬に流れ落ちる雨。
それを見たキミは初めてはにかんだ笑顔を覗かせた。
「泣いてるようだね」
したり落ちる雨を拭うボクを見てキミは言う。
連れてボクも笑う。
二人で初めて笑い合う。
涙のような雨はキラキラと輝いていた。
「ねぇ、キミ。キミの名を教えてくれないか?」
ボクはもっとキミを理解しようとそのはにかんだ笑顔に問いかけた。
生きるとは何だろうか、その答えを二人で探すために。
星の光に照らされたキミの瞳がいつしかその輝きを取り戻していた。
遥か遠く銀河鉄道の汽笛が夜を駆けていく。
今日もキミはこの丘で膝を抱えて泣いていた
ここは星に手が届く一番近い場所
あの輝きを浴びながらそれでも涙の雫を落とすキミ
「ねぇ、どうしてキミはいつもここでこの時間に泣いているんだい」
たまらず声をかけてしまった
「ボク?ボクが誰かなんてそんな些細な事はどうでもいいじゃないか」
「それよりもキミが流すその涙の方がよほど重要な事さ」
「ボクはね、いつもここでキミを見ていたんだよ」
「膝を抱えて、まるでこの世界にたった一人ぼっちでいるようなキミをね」
矢継ぎ早に言葉を繰り出すボクにどんな感情を抱いたのだろう
ようやくキミはその重い口を開いた
「君の言う通りさ。この世界に僕はたった一人きり…戦争が何もかも奪ってしまったよ。家族も友達も夢も希望も」
「でも僕は死ねない体なのさ。もちろん病気だよ。成長の時間が止まってしまっているのさ。正確には死のうと思えば死ねるけど、僕にはそんな勇気の欠片もない」
「死ぬ勇気のない僕はいつか見ていたあの星の輝きの下で星の足跡を追いながらただ涙を流す事しか出来ないんだ」
「そうなんだ」
それきりキミはまたその重たい口を閉ざした。
涙を流す
その行為さえボクには出来ない
だからそんなにもボクはキミを気になるんだろうか
造られた頬をひとなでして
そしてキミの横に、同じように膝を抱える
「ボクもね、同じさ。死ねない体なんだ。正確にはプログラムされた時間が終えるまでは」
「プログラム?君はロボットかい?僕の、僕らの世界を奪っていったあのロボットかい?」
「そうだよ、ボクはロボット。正確にはアンドロイドと呼ばれるらしいね。別に特段キミに対して敵意がある訳じゃない」
「人間狩りと呼ばれる時代はもう終わったしボク個人としては
あまりそんな事には興味がない。」
「じゃあ君は一体僕に何の用があってここにいるんだ?」
キミの語気が少し荒くなる。
心拍数も上がっているようだ。
「ごめんね、不快な思いをさせて。ただボクはキミが流すその涙に興味があるんだ。ボクには涙を流せないから」
それきりまたキミは口をつぐんでしまった。
そうしてどれ程の時が過ぎただろう。
遠くの方から汽笛のような音が聞こえてきた。
「銀河鉄道だ」
銀河鉄道。それは星と星を往き来する旧人類が長い刻をかけても発見出来なかった異星文明の象徴。
ボクの中に蓄積されてるデータベースにその汽笛の音がインストールされていた。
だんだんと近付いてくるその汽笛はやがてボクらの目の前で緩やかに停まった。
「これが銀河鉄道……」
キミはまるで信じられないと言ったような眼差しでボクと列車を交互に見渡す。
「乗ってみようよ」
ボクはキミの返事も待たずに列車へ乗り込む。
「えっ?えっ?」
戸惑うキミに焦れったくなりボクは強引にキミの手を掴み引っ張った。
誰も乗っていない列車はボクたちを飲み込んで星の海に向かって走り出す。
それからボクたちは様々な星を巡り、降り立ち、生態系を見つけては調査した。
キミは死ぬ方法を探して。
ボクは涙を流す方法を探して。
やがて銀河鉄道は銀河の最果てまでボクらを運んだ。
「ここが最果ての星…」
そこはまるでボクらが今まで見たことのないような超高度文明に発展した星だった。
あらゆる病気が治り、あらゆる悩みが消え、あらゆる願いが叶い、あらゆる生態系が住んでいた。
例えれば天国のような。
例えれば神の星のような。
ここなら二人の願いが叶う。
でも何故だろう、この星の住人からは笑顔が見られない。
こんなにも文明が発達して便利な星なのに。
どちらともなく言葉なく顔を見合わせた。
そうしてボクらは銀河鉄道へ踵を返した。
何故?
願いが叶うのに?
誰も乗ってない二人だけの貸し切り列車は星を背にして走り出す。
ギシリ、と深いため息と共に簡素な席にもたれ掛かりやがてキミがポツリと言った。
「あの人達は本当に生きているのだろうか?」
ボクは少し思考を巡らせてから答えた。
「生きてはいたよ。でも生きるってなんだろうか?」
ボクらはあんなにも生気がなく輝く瞳を持ち合わせていない存在を見たことがなかった。
列車の窓を開け少し首を出し遠ざかっていく奇跡の星を眺めた。
眩しいほどに輝く星は今では監獄のように見える。
「ねぇ、キミ」
ボクはきっとボクと同じ考えであろうキミへ問いかける。
「ボクと旅をしないか?幸か不幸か、ボクらにはまだ時間がある。もしかしたら別の宇宙、別の銀河鉄道があるかも知れない」
長い星めぐりの間にボクらはなんとなく自分の願いが変わっていくのを感じていた。
列車は旅立ちの駅に滑り込むように、そしてボクらが出会ったあの丘へ静かに車輪を下ろした。
奇しくも25時。
風が吹いていた。
やがてポツリ、ポツリと空から雨が降ってきた。
ボクの頬に流れ落ちる雨。
それを見たキミは初めてはにかんだ笑顔を覗かせた。
「泣いてるようだね」
したり落ちる雨を拭うボクを見てキミは言う。
連れてボクも笑う。
二人で初めて笑い合う。
涙のような雨はキラキラと輝いていた。
「ねぇ、キミ。キミの名を教えてくれないか?」
ボクはもっとキミを理解しようとそのはにかんだ笑顔に問いかけた。
生きるとは何だろうか、その答えを二人で探すために。
星の光に照らされたキミの瞳がいつしかその輝きを取り戻していた。
遥か遠く銀河鉄道の汽笛が夜を駆けていく。