【帰る場所はここだった】 作:ながる様 朗読:水乃樹純

概要

ながる 様 の作品 「帰る場所はここだった」を読ませて頂きました。

手を引かれていた小さいころ。部活で瞳からも汗が流れた日。
初めて芽生えた恋が咲くことなく枯れてしまった日。
いつでも。「帰る場所」があることはあまりにもあたたかく素晴らしい。

ながる様、いつも優しさかおる作品をお届け頂きありがとうございます。
どうぞまた、素敵な作品を拝見できることを楽しみにしております。
大変ありがとうございました。

語り手: 水乃樹 純
語り手(かな): みずのき じゅん

Twitter ID: jun_mizunoki
更新日: 2024/01/03 12:19

エピソード名: 帰る場所はここだった

小説名: 帰る場所はここだった
作家: ながる
Twitter ID: @nagal_narou


本編

 たまには遠回りしてみようか。
 改札を出たところで父はいつもと反対の道に足を向けた。ついていく義理は無かったけれど、断る理由もない。珍しく一緒になった電車で特に話すこともなく黙って並んで立っていたのに、歩き始めると父は饒舌になった。
 町内会長の家の犬の話。空き家に肝試しに来る若者の話。その空き家にたむろする猫たちの話。
 小さな公園を突っ切る時には、私がブランコから落ちた時の話……父は母に酷く叱られたのを未だに気にしているようだ。擦りむいた膝は傷も残ってないのに。
 覚えてないと笑うと、いつも不思議そうな顔をする。公園なら一緒に滑った滑り台の方が記憶に残っているのだ。
 父はそちらは覚えてないらしい。不思議なものだ。
 家々の窓から漏れる灯りと街灯に導かれながら我が家に辿り着く。
 週末には彼が挨拶しに来ることになっている。特に問題無く話は進むだろう。
 ただいまとドアを開ける父の背中を見つめる。ふわりと香る味噌汁の匂い。
 帰る場所はここだった。
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