【朗読】帰り道 感謝の一言【聴くッショ!】
概要
■あらすじ
いつもの帰り道で、普段は見かけないおでんの屋台を見つけた。とてもおいしいおでんだが、店主は不愛想。しかもなぜか公衆電話をかけることを勧めてきて、、、
いつもの帰り道で、普段は見かけないおでんの屋台を見つけた。とてもおいしいおでんだが、店主は不愛想。しかもなぜか公衆電話をかけることを勧めてきて、、、
語り手: スキヲカタル
語り手(かな):
Twitter ID: sukiokataru
更新日: 2023/12/24 07:37
エピソード名: 帰り道~感謝の一言
小説名: 帰り道 感謝の一言
作家: 狸寝入り
Twitter ID: haruru765
本編
私は何時からこうなったんだろう。
始発で仕事に行き、終電で家に帰る毎日。
妻と最後に話したのは何時だっただろう?
もう思い出せないけど、娘の事でもめたような気がする。
世間はどうやらクリスマスがちかいのか、商店街にはクリスマスの装飾が目につく。
深夜だからどこも開いてないけど、この商店街を通ることが私の日常に世の中を教えてくれる。
仕方のないことだ。
家族を守るために働いているのだから。
何時から自分はそれを言い訳のように考えていたのだろうか。
その家族との時間もとれていないのに。
ふと、鼻腔に鰹出汁のいい匂いを感じ立ち止まる。
こんな時間にどこからだ?
私は気になって辺りを見回し、匂いをたどるように歩く。
その匂いはどうやら路地のところからしているようだ。
仕込みかな? と思ったのだが、路地の奥に明かりが見えた。
たまには外食もいいかと、明かりを目指す。
赤提灯におでんと書かれている屋台を見つけた。
屋台の前に椅子が置かれていて、カウンターで食べれる作りになっているようだ。
私は早速、椅子に座った。
他に客はおらず貸しきりで、開いてるか不安になったがチラリと店主の男性が俺をみた後、特に声をかけてこない。
大丈夫なのかと安堵のため息を漏らして、グツグツと煮える鍋をみる。
大根、ちくわ、こんにゃくと定番の具材が踊っていた。
「すみません。大根とこんにゃくをいただけますか?」
「……」
店主は無言で菜箸で具材をとって、私の前に置いてくれる。
皿にたっぷりのカラシをつけてくれていてありがたい。
でも、どうにも愛想がないな。
これで味も悪かったらお客さんがいないのも納得だが、どうもそういうわけでもなさそうだ。
大根はよく味が染み込んでいて、甘めの出汁が凄く美味しかった。
「あの、何時もは別の場所で屋台をされているのですか?」
私は何時もこの辺りを通るが一度もみたことがなかったので、そう聞いてみる。
「俺に話しかけてないで、話すべき相手がいるでしょ?」
俺の質問にそう言ってきた。
「えっと、どう言うことですか?」
「……電話、そこにあるから」
店主は屋台のそばの公衆電話を指差して、それ以降は何を聞いても、答えてくれなかった。
ある程度の品数を食べた後、帰宅することにして、勘定をお願いする。
「900円」
安いなと思いながら、千円札を手渡す。
受け取ったお釣りをポケットの中で揉みながら屋台を後にして、何で10円なんだろうと考えてしまう。
100円ではなく10円玉を10枚くれたのだ。
しばらく歩いて、私はさらに困惑した。
商店街からでれないのだ。
いや、そこまで長くない商店街だらからそんなはずはないのだが、何故か住宅街にでれない。
30分くらい歩いているのに、まだあのおでんの匂いがする場所にいる。
私は店主のもに急いだ。
「店主! 商店街から出れないんだ。助けてくれ」
おかしなやつと思われても構わない。
私は必死に泣きつくように状況を説明する。
「電話、そこだから早くしなよ」
私の話が終わっても店主はただ当然のように電話の事を指差すだけだ。
「警察に言えってか? 違う、冗談じゃないんだよ」
私はカウンターに手をついて、声をあらげる。
「もうあまり時間はないよ。早く奥さんに電話しな」
店主はそう言って、また仕込みの作業を始めてしまう。
もういいと思って、私は走り出しす。
でも意味はなかった。
いくら走ってもこのおでんの屋台に戻ってきてしまうのだ。
息を整えながら、公衆電話の前に行き、受話器を手に取る。
懐かしい。公衆電話なんていつぶりだろう。
10円玉をいれながら、店主の言うように、妻と話そうと自宅に電話をかける。
「はい、杉田ですけど……。どちら様ですか?」
「夜分にすまない。私だ、光一だ」
「あなた? どうしたんですか?珍しい」
その声を聞いて、私は今日の出来事をふと思い出した。
「いや、すまない。久しぶりに話したくてな」
私はそう言って、10円玉を追加する。
「変なの? そうだ、楓がね赤いランドセルがいいって行ってるんだけど、一緒に買いに行かない?」
もう、娘はそんな歳になっていたのか。
「悪い、行けそうにない」
「もう、仕事も大切だけどたまには娘に顔をみせないと忘れられるわよ」
「ああ、そうだな。何時もありがとう。」
「急に何よ?」
妻は驚いたような声で、聞いてきた。
「何時も家を守ってくれ、美味しい弁当を毎日作ってくれてありがとう」
「……何よもう、バカね。直接言いなさいよそう言うことは」
そうしたい、でもできないんだ。
「そうだな。最後にひとつだけ……結婚してくれてありがとう。愛してるぞ」
そこで電話が切れてしまった。
もう、10円は残っていない。
電話をして思い出してしまった。
夜、帰宅を急いで商店街に入ったところで、運送のトラックに跳ねられてしまったことを。
どうやら私は死んでしまっているようだ。
これは神様がくれた時間だったのだ。
私は怒鳴ってしまったことを謝ろうとおでんの屋台に足を向けた
(完)
始発で仕事に行き、終電で家に帰る毎日。
妻と最後に話したのは何時だっただろう?
もう思い出せないけど、娘の事でもめたような気がする。
世間はどうやらクリスマスがちかいのか、商店街にはクリスマスの装飾が目につく。
深夜だからどこも開いてないけど、この商店街を通ることが私の日常に世の中を教えてくれる。
仕方のないことだ。
家族を守るために働いているのだから。
何時から自分はそれを言い訳のように考えていたのだろうか。
その家族との時間もとれていないのに。
ふと、鼻腔に鰹出汁のいい匂いを感じ立ち止まる。
こんな時間にどこからだ?
私は気になって辺りを見回し、匂いをたどるように歩く。
その匂いはどうやら路地のところからしているようだ。
仕込みかな? と思ったのだが、路地の奥に明かりが見えた。
たまには外食もいいかと、明かりを目指す。
赤提灯におでんと書かれている屋台を見つけた。
屋台の前に椅子が置かれていて、カウンターで食べれる作りになっているようだ。
私は早速、椅子に座った。
他に客はおらず貸しきりで、開いてるか不安になったがチラリと店主の男性が俺をみた後、特に声をかけてこない。
大丈夫なのかと安堵のため息を漏らして、グツグツと煮える鍋をみる。
大根、ちくわ、こんにゃくと定番の具材が踊っていた。
「すみません。大根とこんにゃくをいただけますか?」
「……」
店主は無言で菜箸で具材をとって、私の前に置いてくれる。
皿にたっぷりのカラシをつけてくれていてありがたい。
でも、どうにも愛想がないな。
これで味も悪かったらお客さんがいないのも納得だが、どうもそういうわけでもなさそうだ。
大根はよく味が染み込んでいて、甘めの出汁が凄く美味しかった。
「あの、何時もは別の場所で屋台をされているのですか?」
私は何時もこの辺りを通るが一度もみたことがなかったので、そう聞いてみる。
「俺に話しかけてないで、話すべき相手がいるでしょ?」
俺の質問にそう言ってきた。
「えっと、どう言うことですか?」
「……電話、そこにあるから」
店主は屋台のそばの公衆電話を指差して、それ以降は何を聞いても、答えてくれなかった。
ある程度の品数を食べた後、帰宅することにして、勘定をお願いする。
「900円」
安いなと思いながら、千円札を手渡す。
受け取ったお釣りをポケットの中で揉みながら屋台を後にして、何で10円なんだろうと考えてしまう。
100円ではなく10円玉を10枚くれたのだ。
しばらく歩いて、私はさらに困惑した。
商店街からでれないのだ。
いや、そこまで長くない商店街だらからそんなはずはないのだが、何故か住宅街にでれない。
30分くらい歩いているのに、まだあのおでんの匂いがする場所にいる。
私は店主のもに急いだ。
「店主! 商店街から出れないんだ。助けてくれ」
おかしなやつと思われても構わない。
私は必死に泣きつくように状況を説明する。
「電話、そこだから早くしなよ」
私の話が終わっても店主はただ当然のように電話の事を指差すだけだ。
「警察に言えってか? 違う、冗談じゃないんだよ」
私はカウンターに手をついて、声をあらげる。
「もうあまり時間はないよ。早く奥さんに電話しな」
店主はそう言って、また仕込みの作業を始めてしまう。
もういいと思って、私は走り出しす。
でも意味はなかった。
いくら走ってもこのおでんの屋台に戻ってきてしまうのだ。
息を整えながら、公衆電話の前に行き、受話器を手に取る。
懐かしい。公衆電話なんていつぶりだろう。
10円玉をいれながら、店主の言うように、妻と話そうと自宅に電話をかける。
「はい、杉田ですけど……。どちら様ですか?」
「夜分にすまない。私だ、光一だ」
「あなた? どうしたんですか?珍しい」
その声を聞いて、私は今日の出来事をふと思い出した。
「いや、すまない。久しぶりに話したくてな」
私はそう言って、10円玉を追加する。
「変なの? そうだ、楓がね赤いランドセルがいいって行ってるんだけど、一緒に買いに行かない?」
もう、娘はそんな歳になっていたのか。
「悪い、行けそうにない」
「もう、仕事も大切だけどたまには娘に顔をみせないと忘れられるわよ」
「ああ、そうだな。何時もありがとう。」
「急に何よ?」
妻は驚いたような声で、聞いてきた。
「何時も家を守ってくれ、美味しい弁当を毎日作ってくれてありがとう」
「……何よもう、バカね。直接言いなさいよそう言うことは」
そうしたい、でもできないんだ。
「そうだな。最後にひとつだけ……結婚してくれてありがとう。愛してるぞ」
そこで電話が切れてしまった。
もう、10円は残っていない。
電話をして思い出してしまった。
夜、帰宅を急いで商店街に入ったところで、運送のトラックに跳ねられてしまったことを。
どうやら私は死んでしまっているようだ。
これは神様がくれた時間だったのだ。
私は怒鳴ってしまったことを謝ろうとおでんの屋台に足を向けた
(完)