聴くっショ作品を朗読してみた~ 江山菰・羊を食べたオウムのお話~朗読:yukisige

概要

とても詳しいミヤマオウムのお話。
なかなかハードな命を生きている事を初めて知りました!

朗読承認ありがとうございました!

語り手: yukisige
語り手(かな):

Twitter ID: @yukisige13
更新日: 2023/12/20 11:21

エピソード名: 羊を食べたオウムのお話

小説名: 羊を食べたオウムのお話
作家: 江山菰
Twitter ID: Petalodepersiko


本編

 みんなはミヤマオウムって知ってるかな?
 鳴き声がケーアとかキーアって聞こえるからケアとも呼ばれるよ。
 ミヤマオウムは、あの、みんながだーい好きなカカポと近い仲間の鳥で、ニュージーランドっていう国にいるんだ。ニュージーランドは北の島と南の島に分かれてるんだけどね、ミヤマオウムは南の島の方にしかいない珍しい鳥なんだよ。
 ミヤマオウムって、オウムだからとっても羽の色がきれいで可愛くて賢いと思うよね?
 それがねえ……。
 わりと地味なんだ。
 みんなの知っているオウムは真っ白だったり、かんむりばねが綺麗な黄色だったりするよね?
 でもミヤマオウムはねえ、かんむりばねはないし、頭のてっぺんからしっぽの先まで灰色っぽいみどりいろで、翼を広げると内側がイモリの腹の色。くちばしだって他のインコやオウムみたいにきゅるんと丸まってなくて、ワシやタカに似てとんがって危ない。
 ちょっぴりがっかりしそうなくらい地味なんだ。
 だけど頭はものすごくいい。鳥たちの中で一番頭がいいとも言われているよ。もともとミヤマオウムは食べるものが少ないところに住んでいる。頭がよくてみんなで協力し合わないと食べものが手に入らないんだ。

 性格はパーリィピーポーで、みんなでつるんで遊ぶことが大好き。
 とても頭がいいから仲間どうしで助け合いながらとんでもないいたずらをして遊ぶ。
 ゴミ箱の蓋を開けて食い散らかしたりなんかは当たり前。
 噛む力が強いので、いろんな場所のボルトとナットを外しちゃったり、自転車をパンクさせたりもする。鍵を使って扉を開けたりもできるんだよ。
 いたずらは楽しいって、オウムでも思うんだね。
 人間は困っちゃうね。


 さて、そんなミヤマオウムだけど、どんなものを食べて暮らしているんだろう。
 ミヤマオウムたちはね、なんでも食べるんだ。
 他のインコやオウムの仲間と同じようにくだものや草の葉や種も食べるし、虫や死んだ動物、他の鳥の巣を壊して卵やヒナも食べる。森に食べものが少ない冬は、ゴミ漁りして人間に迷惑もかける。お店へやって来て、コップからお酒を盗んで飲んだりもするんだ。
 ねえ、何かに似ていると思わない?
 こうやって何でも食べる鳥と言えば、カラスだよね。カラスも何でも食べて、とてもかしこい。
 人間だって野菜も穀物もお肉もなんでも食べる。類人猿の仲間のうち、森を捨てて草原へ出て、なんでも食べるようになった群れが今の人間になったんだって。
 だから、なんでも食べるということは、頭がよくなることと関係があるのかもしれないね。でもなんでも食べるから頭がよくなったのか、それとも頭がいいから何でも食べるようになったのか、そこのところはえらーい学者さんの本を読んでみてね。
 とにかく、きみも、好き嫌いせず何でも食べて、つよくかしこくなろう。


 さて、頭がよくて楽しいことが大好きなミヤマオウムは、きっとハッピーに生きているだろうって思うよね?
 それがね、残念なんだけどけっこうつらいんだ。

 昔、ニュージーランドには人間はいなかった。
 千年ほど前になんとハワイからカヌーで人間がやって来て、四百年くらい前にはヨーロッパ人にも見つかった。約二百年前になると、主にイギリス人が自分たちの土地にしようとどんどん人を送って来て、どんどん森の木を切り倒して人間の家や畑、牧場を作り始めた。
 森にいた動物たちはびっくりして見ているだけだった。
 もともと住んでいた場所が切り開かれ、見通しがよくなったところへおっかなびっくり食べ物を探しに行った動物の多くが農業に害を与えるからと追い払われたり、殺されたりした。
 きわだった肉食動物がいなかったところへ人間たちが連れてきたネズミ、イタチ、そして犬とか猫とかいう恐ろしい動物が、森へ入って来て動物の子どもたちや卵を食べてめちゃくちゃにした。
 そうやって、80種類近い動物が絶滅したんだ。
 みんなのだーい好きなカカポも、ちょっと前まで絶滅したと思われていた飛べない鳥の「タカへ」も、絶滅する一歩手前でぎりぎり保護された。
 実は、ミヤマオウムも今、保護されているんだ。

 ミヤマオウムは空が飛べるから、飛べなかった他の鳥たちほど人間の連れてきた恐ろしい動物たちにめちゃくちゃにされたりはしなかったけれど、森の木を切り倒されて住むところが狭くなり、ただでさえ少なかった食べものがもっと少なくなった。
 ミヤマオウムはみんなで困ったね、困ったねと話していた。
 そしたら、ある日、人間が羊を飼っている牧場の外にものすごいご馳走が落ちてたんだ。
 人間が病気で死んだ羊を埋めずにそのまま捨ててたんだよ。
 さっそくミヤマオウムは仲間たちと一緒に見に行った。つついてみた。そして、食べてみた。
 その一口が、天にも昇るくらいおいしかったんだ。
 脂肪もたんぱく質もたっぷりで、そのおいしさときたら森で時々捕まえる痩せた鳥のヒナなんか及びもつかない。
 それに羊は大きいから、森で暮らしているときには滅多に手に入らないご馳走だったお肉が、みんなでおなかいっぱい食べられる。
 ミヤマオウムたちは夢中になってどんどん食べた。とても幸せな気持ちだったよ。
 そして死んだ羊が捨てられるのを見つけるたび、ミヤマオウムたちはみんなで食べに行くようになった。みんな、はしゃいで浮かれてた。
 きみたちが大好きな家族やお友達と大好きなご馳走を食べに行くときみたいにね。 
 そのうち、ミヤマオウムたちは死んだ羊だけではがまんできなくなってきた。
 羊たちがいる牧場へ行って、羊の背中にこっそり乗ってみる。
 羊はおとなしくてぼんやりしているから、何が起こったのかわからないまま草をもしゃもしゃ食べている。
 なあんだ、この動物、大きいだけでちっともこわくないぞ、とミヤマオウムたちは知ってしまった。
 まず、ケガをした羊や弱っている子羊を見つけて背中に乗り、つついて背中の肉をむしり取って食べる。
 羊は痛がって逃げる。
 人間や犬も走ってきて羊を襲うミヤマオウムを追い払う。
 だけどミヤマオウムは飛べるから怖くなかった。人間や犬がいなくなったらまたすぐに羊に群がってパーリィタイムしてたんだ。
 カンカンに怒った人間は、大事な羊を襲う悪いミヤマオウムを銃で殺し始めた。
 ミヤマオウムはどんどんどんどん殺されていった。
 そしてとうとうほとんどいなくなってしまった。
 絶滅危惧種になってしまったんだ。
 四十年くらい前にやっとミヤマオウムを殺したり捕まえたりしてはいけないという法律ができて、今は大事にされている。
 間に合ってよかった。
 羊を食べるからという理由で殺されて絶滅したフクロオオカミと同じ道を辿らなくて、本当によかった。

 聖書には、動物も植物もすべて人間のために作られたと書いてある。
 それを信じていたから、人間たちは平気で動物たちを、そして自分たちと同じ人間だとは認めなかった人間さえも、自分たちの都合の良いように使い、殺し、住む場所や食べ物を奪ってきたのかもしれない。
 神様がせっかく作ってくれたものを粗末に扱うのってどうなんだろう。

 地球上に命が誕生して、存在が知られているのは約175万種。知られていないものも入れたらきっと何千万種も、ひょっとすると億に届くかもしれない。そのほとんどが地球がフライパンみたいに熱くなったり、スケートリンクみたいに凍り付いたり、酸素が濃くなったり薄くなったり、隕石が落ちてきたりして絶滅している。
 とても恐ろしい、仕方のないことだったよ。
 でも、人間が幸せに暮らすために環境を作り替えることも同じことで、仕方のないことなんだ、環境に合わせてくらしかたを変えられなかった生きものが絶滅するのも自然の流れ、淘汰なんだっていう意見を持っている人も多いんだ。
 そういう意見を聞くと、わたしはかなしくなってしまう。

 おいしいものがテーブルに並んでいるときのうれしさ。
 大好きな人たちとわいわい過ごすときのたのしさ。
 病気やけがをしたときのつらさ。
 だいじな人が苦しんでいるときに助けたくなる気持ち。
 だいじなものがこわされたりだいじな人と会えなくなるかなしさ。

 そういう気持ちを他の生きものも持っていると思ってみると、やっぱり守りたくならないかな。
 一緒に地球上で生きていけるといいなって思わないかな。

 たしかに、はっきりした気持ちを持っていない生きものもいる。
 でもそんな彼らの気持ちを想像し、心をあると信じ、慈悲を与える生き物が地球に一種だけいる。
 その慈悲の心は、きっと与えられた生き物のためだけじゃなく、与えた生きものの方にもきっと素晴らしい明日をプレゼントしてくれる。
 わたしはそう信じているよ。

 風でさわさわっと鳴る森の木。
 道端の面白いかたちをした草。
 何か考えながらよちよち歩く虫。
 楽しく歌ったりケンカしたりしている鳥たち。
 人間に出会うと「しまった! みつかった!」と逃げていく動物たち。

 ねえ、生きものがたくさんいるこの世界は素晴らしいと思わないかい?

 今、日本にもミヤマオウムがいる動物園は二か所あって、合計4羽がいるよ。
 もし会えたら、言葉は通じなくても、何か話しかけてごらん。


  ――了
 
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