朗読【たまごの割れる音】

概要

幸せなんだけどやっぱりこわい。

山吹色のオムレツ。
バターとたまごのいい匂い。
愛する人と一緒に居られて幸せ・・・だからこそ、それが壊れ去るときを思うとこわい。

語り手: 白河 那由多
語り手(かな): しらかわ なゆた

Twitter ID: nayuta9333
更新日: 2023/10/08 15:37

エピソード名: たまごの割れる音

小説名: たまごの割れる音
作家: 江山菰
Twitter ID: Petalodepersiko


本編

 あなたはポンと卵を割り、カチャカチャかき混ぜてオムレツを焼いている。
 私はあなたのすぐ後ろでおろおろしている。
 あなたは落ち着かないのか、
「座ってて」
と言うけど、なんだかじっとしていられない。

 きれいな山吹色が流し込まれるとフライパンがじびじびと音を立てる。
 バターとたまごのいい匂いが流れてくる。
 たぶんこれは幸せの匂い。

 私はこのまったりと流れる時間に慣れていない。
 失くすことばかり考えてしまって、ともすると
「そんなふにゃふにゃしたもの、はなっからいらない」
なんて言いそうになる。
 だけど、言ったあとでとてもかなしくなるのがわかっているので、黙っている。

 あなたの作ったオムレツは温かくて中はとろとろ。
 私が作るよりずっとずっと上手。
 
 私は丸いたまごが割れたときの音、どろっと流れ出る白身と黄身、そして割ったあなたの手つきを思う。

 幸せなんだけどやっぱりこわい。
 私みたいなだめな人間がひょんなことから得てしまったこの時間と空間。
 それが壊れ去るときを思うとこわい。
 殻に守られていないと、とても、とても、こわい。
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