【朗読】あの日のあの子が言うことにゃ

概要

子どもの頃の不思議な友達。

語り手: kuro
語り手(かな): くろ

Twitter ID: shirokuromono96
更新日: 2023/09/04 22:29

エピソード名: あの日のあの子が言うことにゃ

小説名: あの日のあの子が言うことにゃ
作家:
Twitter ID: shibaSpoon


本編

あの日のわたしには親友がいました。
 
いつでもどこでも一緒でした。
 
わたしたちは似ているところもあるけれど、似ていないところもありました。
 
あの子はかけっこが得意で、わたしはかくれんぼが得意。
 
あの子は算数がきらいで、わたしは体育がきらい。
 
  ♪あの子がほしい
わたしたちはピンク色がすきで、お絵かきがすきで、そして、ゆうたくんがすきでした。
 
  ♪あの子じゃわからん
でも、なによりもわたしたちは『わたしたち』のことが大すきでした。
 
  ♪この子がほしい
「ゆうたくんをはんぶんこしよう」と、あの子は言いました。
 
  ♪この子じゃわからん
「わたしたちがひとつになろう」と、わたしは言いました。
 
  ♪相談しよう
「賭けっこできめよう」
 
  ♪そうしよう
「賭くれんぼできめよう」
 
***************
 
「―――それで、そのあとどっちが勝ったんだっけ?」
 自由帳の殴り書きはそこで止まっていた。亡くなった母の遺品整理のため、実家に帰った際にふと思い出した、『あの子』との交換日記のようなもの。幼い私が使っていた勉強机の、一番下の引き出しの奥の奥に仕舞ってあった。
あんなに大好きだったのに、もう、『あの子』の顔も名前も思い出せないのは、なんでなんだろう。
 
開け放した窓の外から、蝉の声を縫うように私を呼ぶ声がした。
 
「おーい、物置からお義母さんの着物が出てきたけど、これはどうするー?」
「えー、どんなやつー?」
「結婚式の時に着てた黒留袖と、あともう何着かあるぞー?」
「うーん、ウタ君から見て、売りに出せそうな感じ?」
「保存状態はよさそうだけど、着物のことはよくわからーん」
「わかった、そっち行くから待っててー」
 
 自由帳を引き出しに戻して、算数も体育も嫌いな私は、『あの子』との思い出と一緒に、かつての自室を後にした。
 
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