【この手で抱きしめられたなら】 作:中野 美夢 様
概要
中野 美夢 様の作品、 恋愛短編 「 この手で抱きしめられたなら 」を読ませて頂きました。
ひたすらけなげに大切な人を想う、その気持ちが大きく純粋であればあるほど、哀しい、けれど美しさを感じさせて頂けるストーリー。
★中野 美夢 様、言葉にならなくとも存在するはずの愛を感じさせてくださる、素敵な作品をありがとうございます。
また朗読の機会を頂ければ幸いです。これからも素敵な作品を楽しみにております。ありがとうございました。
ひたすらけなげに大切な人を想う、その気持ちが大きく純粋であればあるほど、哀しい、けれど美しさを感じさせて頂けるストーリー。
★中野 美夢 様、言葉にならなくとも存在するはずの愛を感じさせてくださる、素敵な作品をありがとうございます。
また朗読の機会を頂ければ幸いです。これからも素敵な作品を楽しみにております。ありがとうございました。
語り手: 水乃樹 純
語り手(かな): みずのき じゅん
Twitter ID: jun_mizunoki
更新日: 2023/08/26 05:15
エピソード名: この手で抱きしめられたなら
小説名: この手で抱きしめられたなら
作家: 中野 美夢(なかの みむ)
Twitter ID: mi_novel_kyun
本編
もし、あのとき…。
違うトンネルをくぐってこの世に生まれたのなら、この手で君を抱きしめることができたかな?
ボクは今日も、密かに願う。
君の大切な "ひと" になりたい……。
※
「ガチャ」っと無機質な音が聞こえる。
それは、君が1番嫌いな音。
君の好きなひとが、この部屋からいなくなる音。
君は、絶対に見送りになんて行かない。
行くもんかって、いつも少しふてくされたような顔をして、まだ暗い窓の外を見てる。
夜明けまでは、まだ少し時間がある。
そして、君の瞳からひと粒の涙が流れるんだ。
ボクは知ってるよ。
君はそのまま、朝までそのドアの鍵をかけにも行かない。鍵をかけたら、あのひとがもう来ないんじゃないかって不安なんでしょ?
知ってるけどさ、そろそろやめて欲しいなぁ、さすがに不用心だから。
ボクには守れないから。
朝が来ると、君はそれなりにメイクをしてそれなりの服を着て、出かけて行く。なぜそれなりでいいのか、ボクは知ってるよ。
あのひとは、君が行くところにはいないから。あのひとが君と会うのは、この部屋だけ。
ボクもそれは、同じだけど。
「ガチャ」っと無機質な音が聞こえる。
今度は、ボクがこの部屋に置いていかれる番。
だから君の気持ちが痛いほどわかるんだ。
この音が聞こえる時の、切なさが。
そこからひとが入って来る時の、嬉しさが。
ボクはあのひととは違う。
毎日毎日、君を全力でお見送りに行く。
こんなに、君のことが大好きなんだよって。
「おかえり」だって全力で伝えに行く。
そして、君の笑顔に安心する。
叶うならばもっとずっと、君の笑顔が見たい。
※
毎朝君がいなくなった部屋でボクは、
君の温もりが残るベッドでお昼寝を始める。
そして、いつも同じ夢を見るんだ。
ボクが生まれる前の夢。
まだ「いのち」だけのとき。
みんな神様に呼ばれて、こう言われる。
「好きなトンネルを選んでいいよ」
自由、賢い、元気、冒険…
そこにはいろんなトンネルがあった。
ボクは、優しさのトンネルを選んで生まれた。
もし、あのとき…。
違うトンネルをくぐってこの世に生まれたのなら、この手で君を抱きしめることができたかな?
ボクは今日も、密かに願う。
君の大切な "ひと" になりたい……。
そうしたら、この手のひらで君の涙を拭ってあげられたのに。
子どもをあやすみたいに、君の体ごと全部包み込んで抱きしめてあげられたのに。
君がいつもしてくれるみたいに、君の頭をくしゃくしゃになるまで優しく撫でてあげられたのに。
どう頑張ったって、君より確実に小さいボクの足を見つめながら毎日考えてしまう。
ボクが君の大切な"ひと"になれたなら。
君がしわしわの可愛らしいおばあちゃんになるまで、一緒にいてあげられたのに。
ねぇ、あのひとが「おはよう」って言える時間までこの部屋にいたことある?
ボクなら、ずっとずっと君の傍にいるのに。
ねぇ、知ってる?
悔しいから、ボクは毎晩眠っている君にそっとキスをしていること。
※
「ガチャ」っと無機質な音が聞こえる。
窓の外が暗くなっている。
君が帰ってきた!
ボクは今日も、全力で「おかえり」を伝えに行く。君に会える喜びが隠しきれない。
ふわふわのしっぽが浮ついてしまう。
思わず、思い切り走ったってたいして音の立たない柔らかい肉球で足早にドアへ向かう。
「おかえりー!」
君には、にゃあとしか聞こえない。
それでもボクを見て今日も君が笑うなら、それでいい。君の笑顔を見るとボクの悩みなんて、どうでもよくなるんだ。
例え、ふわふわで小さなこの手では君を抱きしめることができなくても。
この命の限り、君をそばで見守ると誓うよ。
ボクは、君に恋する猫だから。
違うトンネルをくぐってこの世に生まれたのなら、この手で君を抱きしめることができたかな?
ボクは今日も、密かに願う。
君の大切な "ひと" になりたい……。
※
「ガチャ」っと無機質な音が聞こえる。
それは、君が1番嫌いな音。
君の好きなひとが、この部屋からいなくなる音。
君は、絶対に見送りになんて行かない。
行くもんかって、いつも少しふてくされたような顔をして、まだ暗い窓の外を見てる。
夜明けまでは、まだ少し時間がある。
そして、君の瞳からひと粒の涙が流れるんだ。
ボクは知ってるよ。
君はそのまま、朝までそのドアの鍵をかけにも行かない。鍵をかけたら、あのひとがもう来ないんじゃないかって不安なんでしょ?
知ってるけどさ、そろそろやめて欲しいなぁ、さすがに不用心だから。
ボクには守れないから。
朝が来ると、君はそれなりにメイクをしてそれなりの服を着て、出かけて行く。なぜそれなりでいいのか、ボクは知ってるよ。
あのひとは、君が行くところにはいないから。あのひとが君と会うのは、この部屋だけ。
ボクもそれは、同じだけど。
「ガチャ」っと無機質な音が聞こえる。
今度は、ボクがこの部屋に置いていかれる番。
だから君の気持ちが痛いほどわかるんだ。
この音が聞こえる時の、切なさが。
そこからひとが入って来る時の、嬉しさが。
ボクはあのひととは違う。
毎日毎日、君を全力でお見送りに行く。
こんなに、君のことが大好きなんだよって。
「おかえり」だって全力で伝えに行く。
そして、君の笑顔に安心する。
叶うならばもっとずっと、君の笑顔が見たい。
※
毎朝君がいなくなった部屋でボクは、
君の温もりが残るベッドでお昼寝を始める。
そして、いつも同じ夢を見るんだ。
ボクが生まれる前の夢。
まだ「いのち」だけのとき。
みんな神様に呼ばれて、こう言われる。
「好きなトンネルを選んでいいよ」
自由、賢い、元気、冒険…
そこにはいろんなトンネルがあった。
ボクは、優しさのトンネルを選んで生まれた。
もし、あのとき…。
違うトンネルをくぐってこの世に生まれたのなら、この手で君を抱きしめることができたかな?
ボクは今日も、密かに願う。
君の大切な "ひと" になりたい……。
そうしたら、この手のひらで君の涙を拭ってあげられたのに。
子どもをあやすみたいに、君の体ごと全部包み込んで抱きしめてあげられたのに。
君がいつもしてくれるみたいに、君の頭をくしゃくしゃになるまで優しく撫でてあげられたのに。
どう頑張ったって、君より確実に小さいボクの足を見つめながら毎日考えてしまう。
ボクが君の大切な"ひと"になれたなら。
君がしわしわの可愛らしいおばあちゃんになるまで、一緒にいてあげられたのに。
ねぇ、あのひとが「おはよう」って言える時間までこの部屋にいたことある?
ボクなら、ずっとずっと君の傍にいるのに。
ねぇ、知ってる?
悔しいから、ボクは毎晩眠っている君にそっとキスをしていること。
※
「ガチャ」っと無機質な音が聞こえる。
窓の外が暗くなっている。
君が帰ってきた!
ボクは今日も、全力で「おかえり」を伝えに行く。君に会える喜びが隠しきれない。
ふわふわのしっぽが浮ついてしまう。
思わず、思い切り走ったってたいして音の立たない柔らかい肉球で足早にドアへ向かう。
「おかえりー!」
君には、にゃあとしか聞こえない。
それでもボクを見て今日も君が笑うなら、それでいい。君の笑顔を見るとボクの悩みなんて、どうでもよくなるんだ。
例え、ふわふわで小さなこの手では君を抱きしめることができなくても。
この命の限り、君をそばで見守ると誓うよ。
ボクは、君に恋する猫だから。