朗読【星の子の輪舞曲】
概要
長い長い、永遠とも思えるような刻の中で星の子は無限の宇宙を旅しています。
そんなある時、星の子の耳に今までまるで聞いたことのない笛の音色が聴こえてきました。
そして笛の音色の元に辿り着いた星の子を待っていた者とは……。
そんなある時、星の子の耳に今までまるで聞いたことのない笛の音色が聴こえてきました。
そして笛の音色の元に辿り着いた星の子を待っていた者とは……。
語り手: 白河 那由多
語り手(かな): しらかわ なゆた
Twitter ID: nayuta9333
更新日: 2023/06/12 15:41
エピソード名: 星の子の輪舞曲
小説名: 星の子の輪舞曲
作家: わか
Twitter ID: 1975_kaz
本編
星の子は旅をしています。
広大な宇宙を自由気ままに、星座が織り成す瞬きに導かれながら。
星の子がいつものようにふわふわと漂いながら沢山の星を眺めていると、ふと耳元に笛の音らしきものが聴こえてきました。
どこからだろう。
星の子は耳を澄ましてその音色がどこから聴こえてくるのか探します。
それはここからそう遠くない、まるで灰色にくすんだ星から聴こえてくる事に星の子は気付きました。
見たことのない星です。
こんな星があっただろうかと首を傾げながらも
、その音は確かにその星から届いていました。
「行ってみよう」
そしてその音色に導かれるように星の子は灰色の星に向かって行きます。
さて、星の子が降り立った場所は色褪せた大きな駅の前にある広場でした。
こんなに大きな駅なのに誰一人としていません。
星の子は辺りをキョロキョロと見回しながら駅の中に入っていきました。
駅の中は大きく開けていてその中央にはこれまた大きくて立派なヤギの銅像がポツリと置かれています。
星の子はヤギの銅像に問いかけました。
「こんにちは、僕は星の子。宇宙を旅してる星の子。君は?」
ヤギの銅像は答えます。
「こんにちは、ようこそ星の子よ。わたしはその昔、ここで沢山の友達と生きていたヤギの成れの果てだ」
「ヤギさん、ここから笛の音色が聴こえてきたんだ。何か知ってるかい?」
ヤギの銅像は少し黙った後でこう言いました。
「星の子よ。どうかわたしの昔話を聞いて欲しい」
そうしてヤギの銅像はまるで独り言のようにポツリポツリと話しだしました。
「その昔、まだここが木々に囲まれた緑溢れる場所だった頃。争いもなく人も動物も精霊もみんな等しく幸せに暮らしていた。だが、やがて科学と言うものが魔法に成り代わりこの世界を少しずつ壊していった。人々はそうして精霊を見ることも、動物と話すことも出来なくなり次第に世界の調和をみだし互いに争うようになっていった」
星の子は黙って聞いていました。
「ここも科学の力によって壊されてしまった。沢山の友達と楽しい踊りに誘われた魔法の笛はもうない。ここはもうすぐ死に行く星、ここは沢山の忘れ物が置き去りにされた場所」
星の子は疑問を投げ掛けます。
「笛がない?そんなバカな事があるものか。僕は確かに聴いたんだ。この耳で笛の音色を。じゃあその音は一体どこから聞こえたんだい?一体誰が吹いていたんだい?」
ヤギの銅像は星の子の質問など聞こえなかったかのように話し続けます。
「ここは沢山の忘れ物が置き去りにされた場所。魔法も、緑も、優しさも夢も。あぁ、星の子よ。わたしは君が羨ましい。わたしは旅立ちたい。星の子よ、どうか君の力でわたしを旅立たせてくれ」
この星がなぜ灰色にくすんだ色をしていたのか、ようやく星の子は理解しました。
けれど肝心の笛の音がどこから聞こえたのか、さっぱり分かりません。
一度気になり始めたら忘れる事なんて出来ないのです。
「ヤギさん、僕は笛の音がどこから聴こえてくるのか気になって気になって仕方がないんだ。それに僕にはヤギさんを救える力なんて持っちゃいない。旅立ちたいなら勝手に旅立てばいい。ここが死に行く星なら僕はもう去るだけだ」
いくら気になるとは言え、星が死に行くのならここに留まる事は出来ません。
星の子はヤギにお別れを言おうとしました。
するといつの間にいたのでしょう。
星の子の周りに沢山の人や動物がいて楽しそうに踊りを踊っています。
おじいさん、おばあさん、青年、少年、お姉さん、少年より小さな子、大勢の村人、それにウシやウマやネコやニワトリ……みなへとへとになりながらも楽しそうに踊っています。
そして少年が笛を吹いていました。魔法の笛です。
頭のいい星の子はようやく疑問が解けました。
ここに置き去りにされた、今はもういない人々の記憶。この死に行く星から旅立てない想い。
それが笛の音色として星の子に助けを求めていたのです。
「そうか、そうだったんだね。ヤギさん。僕はようやく笛の音がどこから聴こえてくるのか分かったよ」
魔法の笛はほんのりと悲しい音色を含み刻み続けています。
星の子はこの星を、ここに忘れ去られ置き去りにされた想いをどうにかして助けてやりたいと考えました。
ですが方法がわかりません。
一体どうすれば良いのでしょう?
うーんと眉間にシワをよせながら考える星の子の瞳にふと駅のホームに停まっている汽車が映りました。
その時ピーンと星の子は閃きました。
「そうだ、汽笛……!」
星の子は走って汽車に乗り込みました。
「さぁ、ヤギさん、そして置き去りにされた人の想いよ、この汽笛を鳴らすよ。君たちを旅立たせる魔法の汽笛だ!」
ポーッとけたたましく汽笛を鳴らした瞬間、どうでしょう。
今までそこに見えていた沢山の人や動物達が光の玉になって次々と空へ舞い踊っていきます。
それはまるで踊りを踊っているように見えました。
星の子もその光の玉に混ざってくるくると回ります。
そうしてひとしきり踊るようにした後で星の子は言いました。
「僕が宇宙(そら)まで導いてあげよう」
どこからともなくあのヤギの声が聞こえてきます。
「星の子よ、あぁ、星の子よ。私たちを導いてくれてありがとう。私たちはようやく旅立てる。この星はようやく救われる」
ヤギの声に重なるように沢山の声が聴こえてきます。
「ありがとう」
「ありがとう」
「ありがとう」
ぐんぐんと雲を突き抜けて星の子は宇宙へ戻ってきました。
いつの間にかあの沢山の光の玉は消えていました。
星の子が見下ろすとあの灰色にくすんだ星はどこにもなく、代わりに宝石のように青く輝く美しい星がそこにはありました。
これが本来のこの星の姿なのです。
きっとそこに置き去りにされた悲しみの想いが星を蝕んでいたのでしょう。
魔法のなくなったあの星で鳴らした汽笛はもしかしたら最後の魔法だったのかもしれません。
これからこの星は緑も優しさも夢も取り戻していくのでしょう。
人と人が手を取り合い争いのない世界を目指して。
不思議な事もあるものだ、とその青く美しい星を眺めながら星の子は満足げに笑い星座の瞬きを観客に1人舞い踊ります。
記憶の中にある笛の音のメロディーに乗りながら。
【おしまい】
広大な宇宙を自由気ままに、星座が織り成す瞬きに導かれながら。
星の子がいつものようにふわふわと漂いながら沢山の星を眺めていると、ふと耳元に笛の音らしきものが聴こえてきました。
どこからだろう。
星の子は耳を澄ましてその音色がどこから聴こえてくるのか探します。
それはここからそう遠くない、まるで灰色にくすんだ星から聴こえてくる事に星の子は気付きました。
見たことのない星です。
こんな星があっただろうかと首を傾げながらも
、その音は確かにその星から届いていました。
「行ってみよう」
そしてその音色に導かれるように星の子は灰色の星に向かって行きます。
さて、星の子が降り立った場所は色褪せた大きな駅の前にある広場でした。
こんなに大きな駅なのに誰一人としていません。
星の子は辺りをキョロキョロと見回しながら駅の中に入っていきました。
駅の中は大きく開けていてその中央にはこれまた大きくて立派なヤギの銅像がポツリと置かれています。
星の子はヤギの銅像に問いかけました。
「こんにちは、僕は星の子。宇宙を旅してる星の子。君は?」
ヤギの銅像は答えます。
「こんにちは、ようこそ星の子よ。わたしはその昔、ここで沢山の友達と生きていたヤギの成れの果てだ」
「ヤギさん、ここから笛の音色が聴こえてきたんだ。何か知ってるかい?」
ヤギの銅像は少し黙った後でこう言いました。
「星の子よ。どうかわたしの昔話を聞いて欲しい」
そうしてヤギの銅像はまるで独り言のようにポツリポツリと話しだしました。
「その昔、まだここが木々に囲まれた緑溢れる場所だった頃。争いもなく人も動物も精霊もみんな等しく幸せに暮らしていた。だが、やがて科学と言うものが魔法に成り代わりこの世界を少しずつ壊していった。人々はそうして精霊を見ることも、動物と話すことも出来なくなり次第に世界の調和をみだし互いに争うようになっていった」
星の子は黙って聞いていました。
「ここも科学の力によって壊されてしまった。沢山の友達と楽しい踊りに誘われた魔法の笛はもうない。ここはもうすぐ死に行く星、ここは沢山の忘れ物が置き去りにされた場所」
星の子は疑問を投げ掛けます。
「笛がない?そんなバカな事があるものか。僕は確かに聴いたんだ。この耳で笛の音色を。じゃあその音は一体どこから聞こえたんだい?一体誰が吹いていたんだい?」
ヤギの銅像は星の子の質問など聞こえなかったかのように話し続けます。
「ここは沢山の忘れ物が置き去りにされた場所。魔法も、緑も、優しさも夢も。あぁ、星の子よ。わたしは君が羨ましい。わたしは旅立ちたい。星の子よ、どうか君の力でわたしを旅立たせてくれ」
この星がなぜ灰色にくすんだ色をしていたのか、ようやく星の子は理解しました。
けれど肝心の笛の音がどこから聞こえたのか、さっぱり分かりません。
一度気になり始めたら忘れる事なんて出来ないのです。
「ヤギさん、僕は笛の音がどこから聴こえてくるのか気になって気になって仕方がないんだ。それに僕にはヤギさんを救える力なんて持っちゃいない。旅立ちたいなら勝手に旅立てばいい。ここが死に行く星なら僕はもう去るだけだ」
いくら気になるとは言え、星が死に行くのならここに留まる事は出来ません。
星の子はヤギにお別れを言おうとしました。
するといつの間にいたのでしょう。
星の子の周りに沢山の人や動物がいて楽しそうに踊りを踊っています。
おじいさん、おばあさん、青年、少年、お姉さん、少年より小さな子、大勢の村人、それにウシやウマやネコやニワトリ……みなへとへとになりながらも楽しそうに踊っています。
そして少年が笛を吹いていました。魔法の笛です。
頭のいい星の子はようやく疑問が解けました。
ここに置き去りにされた、今はもういない人々の記憶。この死に行く星から旅立てない想い。
それが笛の音色として星の子に助けを求めていたのです。
「そうか、そうだったんだね。ヤギさん。僕はようやく笛の音がどこから聴こえてくるのか分かったよ」
魔法の笛はほんのりと悲しい音色を含み刻み続けています。
星の子はこの星を、ここに忘れ去られ置き去りにされた想いをどうにかして助けてやりたいと考えました。
ですが方法がわかりません。
一体どうすれば良いのでしょう?
うーんと眉間にシワをよせながら考える星の子の瞳にふと駅のホームに停まっている汽車が映りました。
その時ピーンと星の子は閃きました。
「そうだ、汽笛……!」
星の子は走って汽車に乗り込みました。
「さぁ、ヤギさん、そして置き去りにされた人の想いよ、この汽笛を鳴らすよ。君たちを旅立たせる魔法の汽笛だ!」
ポーッとけたたましく汽笛を鳴らした瞬間、どうでしょう。
今までそこに見えていた沢山の人や動物達が光の玉になって次々と空へ舞い踊っていきます。
それはまるで踊りを踊っているように見えました。
星の子もその光の玉に混ざってくるくると回ります。
そうしてひとしきり踊るようにした後で星の子は言いました。
「僕が宇宙(そら)まで導いてあげよう」
どこからともなくあのヤギの声が聞こえてきます。
「星の子よ、あぁ、星の子よ。私たちを導いてくれてありがとう。私たちはようやく旅立てる。この星はようやく救われる」
ヤギの声に重なるように沢山の声が聴こえてきます。
「ありがとう」
「ありがとう」
「ありがとう」
ぐんぐんと雲を突き抜けて星の子は宇宙へ戻ってきました。
いつの間にかあの沢山の光の玉は消えていました。
星の子が見下ろすとあの灰色にくすんだ星はどこにもなく、代わりに宝石のように青く輝く美しい星がそこにはありました。
これが本来のこの星の姿なのです。
きっとそこに置き去りにされた悲しみの想いが星を蝕んでいたのでしょう。
魔法のなくなったあの星で鳴らした汽笛はもしかしたら最後の魔法だったのかもしれません。
これからこの星は緑も優しさも夢も取り戻していくのでしょう。
人と人が手を取り合い争いのない世界を目指して。
不思議な事もあるものだ、とその青く美しい星を眺めながら星の子は満足げに笑い星座の瞬きを観客に1人舞い踊ります。
記憶の中にある笛の音のメロディーに乗りながら。
【おしまい】