【朗読】法の下では平等です

概要

先日NFRSラジオのピンクシャツデー(#いじめ反対)企画に参加した際に朗読させてもらった作品です。

語り手: kuro
語り手(かな): くろ

Twitter ID: shirokuromono96
更新日: 2023/06/02 21:46

エピソード名: 法の下では平等です

小説名: 法の下では平等です
作家: 美月紫苑
Twitter ID: mituki_shion


本編

タイムリミットまであと、数時間。
誰が時効なんて考えたのだろうかと文句を捏ねながら電話を待つ。
一瞬の、電話が掛かってくる前の空気で「キタ」と思う。着信音が鳴りすぐにでも出たい気持ちをコール音で静める。
「……もしもし。──ああ、うん。良かった。」
例の人が捕まった、とのことだった。
正確に言えば逮捕では無く、まだ連絡がついた状態ではあるが。今はそれで十分だ。もう逮捕は目前なのだから。
「今そこに居る?じゃあスピーカーで宜しく。」
もう何年も繰り返してきたフラッシュバックで呼吸が乱れる。上手く息が吸えない。でも、これは自分が決めたことだ。
「……久し振り、と言ってもどうせ覚えてないだろうね。加害者としての自覚をもってもらうために今から当時の罪状を述べる。たったの一部だけれど。」
「はあ?マジで意味わかんない。」
そんな声が電話の奥で聞こえる。
ああ、忘れたくても忘れられなかったあの声だ。
条件反射で身体が硬直して、勝手に震えてしまう。
それを見かねたのか同僚に声を掛けられるが、大丈夫だと退ける。
大きく深呼吸をして整える。
「窃盗や器物破損、繰り返される私物への盗難行為や破損行為。侮辱罪、当人に対し悪態をついたり、事実と異なる事を吹聴していた。どれも証拠等も存在している。それから──。」
当時のことを思い出すだけで眩暈と吐き気と、希死念慮とがぐるぐるまわっている。
「他にもあるけれど、それらは全て法廷でしっかり裁かれるんだ。」
「いじめなんかで裁判沙汰の勝訴の前例なんてないんじゃない?」
人を馬鹿にしたようなそれは相変わらずだな。
「いじめは立派な犯罪だよ。前例は作ればいい。どう?第一人者になる気分は。最高でしょう?世間にたっぷり注目されるよ。逃げたって無駄。もうこれは決定事項なのだから。残念だね、たった数年の出来事で人生破滅するんだから。……でも、これは正当な裁きだよ。お前には今後の人生を掛けてでも償ってもらうよ。」
だって、誰がなんと言おうと法の下では平等なのだから。なんのために生きて勉強したか、しっかり教えてやるよ。
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