花を送ろう

概要

何でもない、君が生きている日だから花を送る

ピンクシャツデー朗読企画で読ませて頂いた作品です。

語り手: 座敷童子
語り手(かな): ざしきわらし

Twitter ID: warashi204
更新日: 2023/06/02 21:46

エピソード名: 花を送ろう

小説名: 花を送ろう
作家: 美月紫苑
Twitter ID: mituki_shion


本編

こっそり隠すでも無く、にこやかに堂々と持ち帰った花。
「今日、何かお祝い事でもあった?」
そう尋ねる女性に渡したのは一輪の花。
「ううん。何でもない日だよ。」
──随分前にそんな会話をしているドラマを見掛けた。
なんで急に思い出したのか分からないけど、花屋特有の匂いが鼻をくすぐったからか、帰路で思わず足を止めてそんな事を思い出した。

何でもない日、か……。
確かに今日は誰かの誕生日かもしれない。何かの記念日かもしれない。でも自分にはお祝い事なんて無い何でもない日。
パーティーをする訳でもなければ、おめでたい何かがある訳じゃ無い。けれど、不意に思い立ったからって理由だけで花を送ろうか。
おめでとうの言葉もないけど、有り難うの笑顔も返ってこないけど、たまにはこういうのも良いだろう。
色はどうしようか。匂いもこんなに違うんだ。形だって小さいのから大きなのまで。
──ああ、君の好みを全く知らないんだな。
そう思い知らされる。
今日はどうしようかな。お互い花の知識なんてないからすぐに枯らすかもしれないな。そうなったらまた新しい花を買おうか。
次買う時は君の好みが聞けたら良いな。
「すみません。」
花屋の店員に声を掛けて、一輪だけ包んでもらう。
会計をする為に財布を取り出し、選んでいない花を眺めながら一つ一つの匂いが混ざると花屋の匂いになるんだなって改めて実感する。
そうして包まれた花と引き換えに代金を支払う。
「……こんなに花は高いのか。」
綺麗に包まれた花を手に引き返せないまま、そんな事も知らずに今まで生きてきたんだなって思い知らされる。
この世の中には自分が知らないことだらけなんだ。これから少しずつでもまた知っていけたら良いな。
君の事も。未来のことも。
たった一輪でも良いからいつも頑張っている君に花を送ろう。
しぼめばまた知らない花を買って、色も匂いも形も、色んなことを知っていけばいいのだし。
今日も生きていることだけでお祝い事なんだから。何でもない日だけど、君が生きてくれている日なんだ、花を送らせてくれないかな。
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