【聴くっショ!公式企画】夏の詩

概要

聴くっショ!
「あなたの朗読を無料で動画にします企画」参加作品

夏の詩
作家: 彼方千尋 様
Twitter ID: Cknkam1
朗読:おーかみっ
Twitter ID:Yusukeohkami
整音:聴くっショ!
動画化:聴くっショ!
Twitter ID:@kikudokusyo

語り手: おーかみっ
語り手(かな):

Twitter ID: Alzya7
更新日: 2023/06/02 21:46

エピソード名: 夏の詩

小説名: 夏の詩
作家: 彼方千尋(Kanata Chihiro)
Twitter ID: Cknkam1


本編


夏の詩

どうやら、夏は終わったようだ。
乱立するビルが空を突き刺している。
どっかの誰かが起きてるせいで、
もう何回徹夜したのかわからない。
夏の太陽は正しく燃えていて海に溶ける。
遠くにあるはずなのに
行方を遮り突き刺される快感に
崩れる膝はコンクリートの鉄板に焼かれ
巡る血がぐつぐつと煮え始める。
熱帯の水槽の中で、
茹でられる頭の中で、
ぼんやり何かを探す。
ああ今頃、私は元気でやっているだろうか。

夏の薄い黄色の月は、
それは、それは優秀に満ち欠けて、登り。
月影が、雲の隙間から夜を写し出し、
大体夜の7時くらいから光を照らそうとした。
死んだ太陽の余熱が収まらぬ空気に触れて、
濡れたアスファルトの凸凹の道が、
パレードのように通り過ぎていった豪雨の
足跡を確かに遺していた。
死ぬことに懸命だった真夏の蝉達は、
その願いを叶え、抜け殻を捨てた。

身体から湧き出して流れる汗を
拭わずにそのまま見送れば、
それは少し清々(すがすが)しくて。
逆らわずに流れる汗が、
少し強引な重力に連れていかれ、
開いたノートの罫線の上に
構うことなく、身を投げていった。
『願わくば 四季の移り変わりの様に
寄せては返す波の様に
近づいては 遠のいてゆく
夏の死臭に秋の風は冷たく薫る。
一緒に揺れないブランコのように
歩幅がだんだんずれていく。
君の、私を思う心が詠めずにいる。
しかしそれでも、 君だけは
どうか安らかに幸あらんことを。』
やっときたかと共に歩いた夏が、
ふと気がつくと背中にとりつき、
目を凝らして見えた星空をバッグに
バーチャル花火と消えていった。
それはもう、非現実的で、
綺麗でないわけがなかったんだ。

本物では無かったとしても、
真実とは遠いものでも、
それも愛だと気付けなくても、
夢では無かった、夏があった。
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