日々是朗読【パンとスープ】〈虹倉きり〉

概要

本当であれば、女性の「本当に美味しいものを食べたときに出る感嘆」のような声が出せればよいのでしょうが、大変申し訳ございません。
めちゃくちゃ男性の声で朗読してしまいました。
がんばったんだけど、いやぁ、伝わらないもんですよね。
朗読って、難しい。。。

語り手: 読書人流水
語り手(かな): どくしょじんりゅうすい

Twitter ID: bass_ryu_z
更新日: 2023/06/02 21:46

エピソード名: パンとスープ

小説名: パンとスープ
作家: 虹倉きり
Twitter ID: tensyorinne


本編

「おなかすいたな…」

小腹が空いた私は、それを満たそうと思い、キッチンに駆け込む。
冷蔵庫の中には、未開封の六枚切りパンが二つあった。消費期限は早い順に、5/9、5/18と、とっくに過ぎている。
でも、そんなことはどうでもよかった。食べれれば良いのだ。

私は5/9に切れたパンを開けて、一枚取り出し、トースターに入れた。

カウンターの上に置かれた、嗜好飲料をまとめたコーナーを見ると、頂き物のスープ類がずらりと並ぶ。
そういえば、しばらくパンと一緒に飲んでないな、と思った私は、食器棚からスープマグを取り出した。
残っているのは、コーン、オニオン、クラムチャウダー、海老のビスクの四種が一個ずつ。パンと一緒に飲んだことがないから、海老のビスクを選んだ。それをマグの中に入れ、お湯を注ぐ。
海老の匂いが湯気と共にモクモクと上がる。殻ごと潰したような、独特な匂い。色はクリームがかった赤色。赤と白の絵の具をおもむろに混ぜたような色だった。
スプーンでスープを混ぜ回す。混ぜるたびに、海老の匂いが鼻腔を刺激する。絶対美味しいという直感が、私の中を駆け巡る。
チン!とトースターが鳴る。パンが焼き上がった。いい感じの焦げ具合。
袋から取り出した時は少し硬くなっていたのに、焼いてみるとサクサクのふわふわになるのだから、パンというのは不思議だ。カビが生えない限り、工夫さえすれば美味しく頂ける食材なのだ。

ティッシュを皿代わりにして、その上にパンを乗せる。
一息ついて、スープマグに口をつける。

「う~~~ん………」

至福のとき。海老の風味が喉元を経由して鼻の内側から更に刺激を与える。

続いて、パンを一口ほおばる。

サクッ。

「……んふ」

消費期限が過ぎているとは思えないような仕上がり。マーガリンを塗って食べたらどれほど美味しいことか、と改めて思う。

パンを少しちぎって、スープを付けて食べてみる。
噛みながらも、顔がほころんでしまう。パンの甘みと海老の風味がマッチングして、つけパンがこんなに美味しいだなんてと感動してしまうほどだ。

パンとスープを頂きながら、世情を憂う。
ありきたりなことを幸せに感じてもいいはずなのに、どうして人は他人の幸せにイチャモンを付けたがるのだろう。
自分の世界を構築するのに、どうして他人の許可が必要なのだろう。
生きるために動かざるを得ないことを、どうして咎めなければならないのだろう。
自分の意見を言うのに、多くの敵を作らなければいけないのだろう。
咀嚼するたびに、様々な疑問が浮かぶ。

幸せであれば、それでいいのだ。
周りに迷惑をかけなければ、我が道を貫けば良いのだ。
私の世界は唯一無二であり、それを作り出す人は他にいない。
「豊か」だと感じるかどうかはその人の物差し次第であり、物的な豊かさはもはや意味を成さない。
現に私は、この生活に対して、ちょっとした幸福感を感じている。
それは、外的ストレスから逃れられているからなのか、好きなことをして過ごしているからなのかもしれない。
もちろん、マイナスなことはあるのだけれど、一度上げてしまうとキリがなくなる。

消費期限の切れたパンを焼いたトーストと、頂き物のスープ。
シンプルだけれど奥が深い二品。
人は、これだけで幸せと感じてしまうのだから、よく出来ている生き物だなと、つくづく思う。

久しぶりに有意義なおやつタイムを過ごした。

ごちそうさまでした。
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