きりとりせん

作家: はちゃこ
作家(かな): はちゃこ

きりとりせん

更新日: 2023/06/02 21:46
詩、童話

本編


息子の爪を切る。
あのころは紙石鹸のように薄かった爪が
今は私の手のなかで、ぱちんと音を立てる。
膝の上でおさまっていた手足は、もうはみ出るほど窮屈で。
指先をじっと見つめて、すうすうと上下する背中が熱い。

日常に溶けていく名もなき時間に
私は黙々と、きりとりせんをひいていく。
積み重ねてきた日々との、小さな決別
なんてタイトルをつけながら。

さようなら、小さかったあなた。
過ぎゆく春が、レースのカーテンを揺らす。
ぱちんと、とんでいったちいさな欠片は
目を凝らしても、もう見あたらなかった。
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