プラネタリア

作家: 狸寝入り
作家(かな):

プラネタリア

更新日: 2024/06/08 22:19
その他

本編


朝起きてテレビの電源をいれて、部屋の明かりをつける。

音量を小さくして、洗面所を目指す。

水道をひねって冷たい水を出し手ですくって顔にかける。

「あ~、仕事だ」私はそう呟いて、歯磨きを始めた。

いつもこうだ。目覚ましがなる五分前に起きて、この繰り返し。

朝の占いを見て出勤。もちろん電車は寝て過ごす。

誰とも目を合わさない、誰とも話さない。

一人だ……一人だ。

職場に着く前にトイレに行く。

これはとても大切なことだ。

誰とも会話しない私から、仕事好きの私の仮面をつける行為だからだ。

その仮面をいつからつけ始めたかは分からないけど、こうでもしないとやってられない。

上司への愛想笑い。パート達の小競り合いの仲裁。うんざりだ、うんざりだ。

そして十時間後会社を出れば星達が私を見下ろしてくれる。

駅に着く頃には、仮面は自然ととれていた。いつものことなのだ。

でも、今日は私の敷いたレールから外れてみよう。

明日は休みだ、お酒というものを試すのもいいかもしれない。

でも、居酒屋に入る勇気もない。

ふと、路地から歌声が聞こえてきた。

何とはなしに足を向ける。

ギターを持ったジャージ姿の女の子がうつむき、時おり前を見ながら歌っていた。

聞いたことのない曲だ。

若者らしいとがった歌詞だった。

でも自然と私は聞き入ってしまう。

いつからいくつものペルソナ使って生きてきたんだろう。

大人になったから仕方ないのか?

そんなのは言い訳だ。

自分って何なんだ?……何なんだ?

分からないけど、彼女の歌を聞いていると涙が出てくる。

その歌が終わった時、私は拍手をしていた。

目立たないよう、空気のように、何にも期待せず無の感情で生きてきたのに、私の心は動かされてしまったんだ。

彼女がチラリと私を見て、ペコリと頭を下げた。

私は財布から一万円札を出して、彼女のギターケースにいれてその場を立ち去る。

私は生きているんだと久しぶりに実感した。

世界があって私がいるんじゃなく、私がいるから世界があるって考え方をしようって思った。 星が当然のように輝く空の下を私は今日も歩く。

いや、何時もより晴れ晴れとした気分で歩くんだ。

ハローニューワールド、グッバイ、パースト。
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