学校教職員のヒノ先生

作家: 蒸気宇宙船
作家(かな): じょうきうちゅうせん

学校教職員のヒノ先生

更新日: 2023/06/02 21:46
SF

本編


「貴方はクビです」
ソア国先住民族出身のヒノ先生は、採用決定から23時間後にマジェラン部族連合出身の学園理事長からクビを宣告されました。
何故なのか?と言いますと、ヒノ先生は採用通知が来て意気揚々と受け持つ予定だった教育ブースに入った途端、クラウド社会組織体出身の幼体から電撃を喰らったからです。
そしてヒノ先生は、3時間もビクビクと痙攣しながら気絶して、それが学園上層部から「職場放棄」と看做されたのです。
「そ、それはないでしょう!私はあのクラウド社会組織体出身の幼体から電撃を喰らって、気絶していたのですよ!?言わば、不可抗力です!なのに突然自分がクビになるなんて理不尽ですよ!」
理事長室に呼び出されたヒノ先生は、麻痺が残る身体を押して反論します。
「ダメです。貴方は3時間12分35秒も職場放棄をしていました。また、クラウド社会組織体のヒトビトは、挨拶として相手に電撃を浴びせることが慣習です。しかし、貴方はその挨拶の際に、気絶をしたのです。これはクラウド社会組織体のヒトビトにとり、最大の礼を失する行為でもあります。貴方が解雇される理由は、職場放棄もありますが、生徒に対する最大の侮辱行為をはたらいたこともあります。マナーも守れないヒトは、この学園には必要ありません」
学園理事長は、時折長い舌で自分の目玉を舐め回しながら宣います。
「わ、分かりました…。自分も礼を失する行為をしでかしたのならば、自ら身を退きます…」
ヒノ先生は、自分より格上のヒトに対しては、ですが、大変押しに弱いところがあります。
故に、理事長直々にクビを宣告されてしまっては、自分ではどうすることもできなかったのです。

「…はあ…。これで学校をクビになるのも50回目かぁ…」
学校をクビになったその日、ヒノ先生はトボトボと歩道を歩きながら溜息を吐きました。
その途中、掘立小屋と付属の土地が大変格安で売りに出されているのを目にした先生は、突如として天啓の如く何かが閃いたのです。
「そうだ!ここの不動産を買って、自分で学校を創設すればいいのよ!!自分で自分を学園のトップにしてしまえば、もうクビになることもない!!」
ヒノ先生は、手前味噌ながらこの素晴らしいアイディアに自分で感銘しました。
そして先生は、矢も楯もなくその場でビクビクと脈打ちながら昼寝していた不動産管理人らしきビオ複合企業体のヒトを蹴とばしたのです。
ヒノ先生は、何時も他の統治生産流通機構(国家・企業・コミューン等)のヒトとコミュニケーションを執るために持ち歩いていた懐中電灯を点滅させて、早速管理人にお話をします。
「すみません!お昼寝中に悪いのですが、ここの不動産、まだ買い手はついていないのでしょうか?」
すると、気持ち良さそうに昼寝をしていたビオ複合企業体出身の管理人さんは、いきなり蹴とばされて起こされたのにも関わらず、不機嫌そうな形も見せずに愛想よさげに形態を変化させて、点滅器官を点灯して先生に返答します。
「あ…ああ、俺の所有する不動産に、遂に買い手がつくのか…。そりゃ有難い。どれどれ…アンタ、このソア国の先住民族のヒトね。それなら格安でお譲りするぜ。ここの不動産の価格は…」

かくして、ヒノ先生は本来ならば証券10の50乗枚ほどの価格のあるこの不動産を、ソア国先住民族出身という誼で、たったの炭筆1本分の値段で手に入れたのです。

次の日。
「…う~ん…。勢いで買ってしまったけど、こりゃ自分と同じ形態の統治生産流通機構のヒトしか使いようがない建物ね…」
ヒノ先生はコケモモの缶詰から実を摘まみ出しながら、そして建物をつぶさに見て回りながら、つぶやきます。
「学校名も決めた!ソア国の神様に因んで、『聖ンバンバ学園』にしようっと!そして…後は...生徒の募集ね!『プロジェクト』広報班に片手間仕事を依頼するのもいいけど、自分でも非力ながら何かをしたい!」
…というわけで、ヒノ先生はその足で町のちんどん屋に広告を依頼しました。

一週間後。

ちんちんどんどんぴ~ひゃらら~♬

ヒノ先生は、自身もちんどん屋の末尾でビラを配るという条件を呑んで、早速学校開設の広告を打ちました。
けれども、1カ月間の契約期間中にビラを手にしてくれたヒトは、ラニアケア出身らしきちんちくりんなヒトにウプ共和国出身者らしきヒト、アクトゥス・コミューンの「ニート」らしきヒト、そしてスチーム工業集団製の自己再生産機械にズズ連邦出身らしきヒトの、たったの5匹だけでした。

「はあ…。入学希望者は来てくれるのかしらねぇ…」
先日ビラを受け取ってくれたちんちくりんなヒトが、同じくちんちくりんなヒトと仲良さげにコケモモ缶詰工場に入るところを工場の向かいに建つカフェから目にして、先生はつぶやきます。
「まあ、あのライン工らしいヒトは、何となく“脈あり”と思うけど、ついでに同僚も引き込んでくれないかなぁ…?」
などと、虫の良すぎることも考えるヒノ先生。
別の日。
広軌鉄道敷設現場にて、ウプ共和国出身らしき建設・土木工事現場監督が、最前列のアクトゥス・コミューンの労働階級らしき派遣作業員に目を釘付けにしながら、この日の作業の説明をしているところを目にして先生曰く
「はあ…。アイツらの中の1匹だけでも、私の学校に来てくれないかなぁ~?」
さらに別の日。
軽便電車の駅で、修理工姿のヅバ株式会社出身のヒトがズズ連邦出身の農園の小作人からコケモモを買っているところを目にしながら、先生は考えます。
(この2匹も仲良く私のカモになってくれたらいいな~)

ともあれ、事前に告知していた入学試験の日。
元々掘立小屋だった建物で、ヒノ先生と同じ形態の統治生産流通機構のヒト以外では使い勝手の悪い校舎だったので、入学願書を提出したのは、やはりヒノ先生と同じような姿のヒトがたったの6匹しかいませんでした。

その6匹に先生は挨拶をします。
「あ、ちぃ~っす!」
「はいたい!」
「イランカラプテ!」
「アンニョン!」
「ニイハオ!」
「こんちゃ~っす!」
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