春を告げる

作家: 狸寝入り
作家(かな):

春を告げる

更新日: 2023/06/02 21:46
詩、童話

本編


カンカンカン、カンカンカン。

アパートの階段を誰かが上ってくる。

私の住むアパートは築年数が古く錆びた鉄でできた階段は、誰かが上ってくればこうして音がなるのだ。

トン、トントン。

私の部屋のドアが叩かれた。

「はーい」

声をかけながら玄関に向かう。

といってもワンルームの部屋なのでまっすぐいくだけなのだが……

覗き窓から外を確認する。

そこには一羽のツバメさんがいました。

「こんにちは春を届けに来ました」

ツバメさんは頭に桜の花をつけて、そう言います。

「あら、ツバメさん。もうそんな季節になるのね?」

玄関ドアを開けて、私はツバメさんを部屋に招きました。

「そうなんです。春なんです」

ツバメさんは部屋を飛びながら、桜の花びらを降らせてくれます。

部屋の中が春の色に染まりました。

「そういえば、階段は誰が上がってきたのかしら?」

ツバメさんは飛べるので階段は必要ないはずです。

私は疑問に思ってそうたずねました。

「ああ、それは野うさぎさんです。彼も一緒にきたのですが、どうも人見知りなようで」

ツバメさんは部屋のランプの上にとまって、そう教えてくれます。

「そうだったのね。鍵は開いてるから、入ってきて?」

先ほどは気づかなかったけど、いるならぜひ一緒に春を楽しみたい。

私の呼び掛けに遠慮がちにドアが開き、野うさぎさんが顔をのぞかせます。

「い、いいのかな?」

「彼女が良いと言っているのですから、入りなさいよ」

野うさぎさんの言葉にツバメさんはそう言いました。

「そうよ、いいのよ。一緒に春を楽しみましょう」

「うん、じゃあ」

とてとてと、私の前に姿を見せてくれた野うさぎさんは、梅の花が咲いた木の枝を咥えていました。

「野うさぎさんの梅の花も綺麗ね」

私はそう言いながら、頭を撫でてあげます。

「だ、だよね? これ綺麗だよね」

野うさぎさんは嬉しそうにぴょんっと、跳ねました。

「それじゃ、お茶いれましょう」

「「ありがとうございます。お姉さん」」

二人のお礼を聞きながら、私は立ち上がり紅茶の準備を始めます。

ポコポコ、水が躍り。ぴゅーぴゅー、ヤカンが音を奏でてくれました。

ポットにコポコポお湯を入れて、茶葉を三匙入れます。

紅茶の香りが部屋に広がり、小さな部屋のお茶会の始まりを告げました。

「もう、春なんだな……」

私は小さくそう呟いて、お茶を二人のもとに運んでいきます。

春を告げてくれた二人に感謝をこめて……

0