そして眠りにつく

作家: ながる
作家(かな):

そして眠りにつく

更新日: 2023/06/02 21:46
その他

本編


 また同じ夢を見た。
 夢の中の君は少し奔放で、夜空に浮かぶ三日月のソファで話そうと僕の手を引いた。
 夢の中でさえリアリストな僕は「どうやって」と焦るのだけれど、君はそんなことをいう僕の方が解らないという顔をして、真白な翼をばさりと広げる。
 羽ばたきが呼ぶ風はいつも少しひやりとしていた。

 繋がれた手のおかげで、辛うじて僕の身体も空へと登って行く。重力から離れられない自分の重さがいつも心にのしかかっていた。
 翼を広げて、天と地の星の間を一緒に飛べればいいのに。風を作るのも、風を切るのもいつも君だけ。

「僕を置いていけばいい」
「どうして?」
「僕は重い」

 小首を傾げて、君は僕を引き寄せる。君が、近い。

「重くなんてないわ」
「嘘。手が離れれば、僕は落ちる」
「嘘じゃない。あなたが地から離れたくないのも知ってるけど」

 君は少し口を尖らせて、視線を外す。あぁ、次のセリフも、もう分かっているのに。

「一緒に行きたいのよ」

 子供を座らせるように僕を三日月に腰掛けさせ、君も隣に腰掛ける。三日月は少し沈んだようだ。

「あなたがいれば、どこまでも行ける」

 君の指差す先には幾万の星。だから。
 君を地上に留めて置きたくて、僕は翼を出せないのかもしれない。僕が錘にならないと、君はどこまでも行ってしまう。

 臆病な僕は君とどこまでも行く勇気がなくて、でも君とはいたいから。ジャングルジムの上、屋上、山の頂、飛んでいる飛行機、そして、月。徐々に上がる高度に胸がざわめく。
 いつか、行けるだろうか。君の指先が示すところ。並んで風を作れるだろうか。
 僕は地上の星を見下ろし、そして眠りにつく。
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