秘密の庭

作家: トガシテツヤ
作家(かな): とがしてつや

秘密の庭

更新日: 2024/10/17 02:14
現代ドラマ

本編


 高校1年の時、3日間のオリエンテーション合宿というものがあった。福島県にある自然の家で、敷地も建物もかなり広く、大きかった。
 合宿で何をやったのかはほとんど覚えていないが、修学旅行気分で、まぁまぁ楽しかった記憶はある。
 朝食の後に掃除の時間があり、グループごとに担当が決まっていた。私のグループは本館と別館を繋ぐ渡り廊下付近の拭き掃除と掃き掃除。ちなみに、合宿は全部本館内で行われており、別館には一度も立ち入ることはなかった。

 渡り廊下の窓から、別館の向こうに小さな庭が見えた。別館の建物に隠れてよく見えないが、小さな|祠《ほこら》もある。

 ――神社が併設されているのかな。

 自由時間に外に出て、何となくその庭に入る道を探したのだが、2メートルはありそうな高い|生垣《いけがき》に阻まれ、中の様子を窺い知ることはできない。出入口があって、「立入禁止」と表示がしてあるわけでもなく、どう見ても出入口自体がないのだ。
 別館から出入りするのだろうと思ったが、外と別館を繋ぐ出入口も見つからなかった。本館から延びた渡り廊下の別館側は、大きくて頑丈そうな木の板がガッツリとはまり込んでいる。

 私は合宿の間中、別館と小さな庭、そして祠のことがずっと気になっていた。どう見ても、外界と隔絶されているようにしか思えない。ただ、窓から見る限り、庭は綺麗に手入れされている。荒らされないように、合宿の間だけ立入禁止にした可能性もあるが、やはり気になった。

 合宿最終日の掃除の時間。私は掃除の手を止め、窓から小さな庭と祠をぼんやりと眺めていた。

 ――結局、あの庭へ入る方法を見つけられなかったか……。

 後ろ髪を引かれる思いで、窓から視線を外そうとした瞬間……。

 ――あ!

 本当に一瞬だった。
 あの庭から、何者かが別館の陰にすっと隠れるのが見えた。

 ――誰だ?

 人だった気がする。男性か女性かは分からないが、とにかく人だった。
 私は窓に張り付き、人影があった場所を凝視した。

「おーい! 終わったのか!」

 友達の声で我に返る。

「終わったよー!」

 大急ぎでほうきとちり取りを持って、友達の元へと走った。
 一度だけ立ち止まり、窓から庭を見る。

 女の人が、別館の陰から半分だけ顔を出し、こちらを見ていた。

 不気味とか、そういうのではない。

 ――人がむやみに立ち入ってはいけない場所。

 そう理解し、納得した。

(了)
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