バス 思い荷物を運ぶ

作家: 狸寝入り
作家(かな):

バス~思い荷物を運ぶ

更新日: 2024/09/05 21:10
その他

本編


家からバスに乗り三十分かけて最寄りの駅まで移動し、そこから一時間電車に揺られて職場のある駅に着く。

毎日365日この繰り返しだ。

いや、週に一度休みがあるからそれは言いすぎか?

まぁ、俺の人生はそんな感じだ。

早朝に家をでて帰宅すればうどんをすすり、朝を向かえる。

因みに昼食はたこ焼きが多い、たこ焼きうどんマイベストライフ。

今はバスに乗って帰宅中なのだが、いつもより三時間ほど遅くなってしまた。

残業してたせいにしても遅い、だがなぜか記憶が曖昧だ。

思い出そうにも思い出せないもどかしさに頭を捻っていると、停留所に止まった。

場所を知らせるアナウンスの後、一人の老人が空いた車内の中俺の横に座る。

「お久しぶりですね」

そうにこやかに声をかけられた。

「え? ああ、牧田先生? そうですよね?」

その老人をよく見ると高校時代の恩師だったので驚く。

「忘れておらんかったか」

笑いながらそう言われる。

「あたりまえです。牧田先生のおかげで、俺大学にいけたんですよ!」

「そうなのか……それは本当に良かった」
 
「報告ちゃんとしたかったんですよ? 故郷の病院に入院したって聞いて、それも叶わず……でもこうしてまた会えて良かった……俺、就職も決まって、ブラックですけどやりがいがあるんすよ」

「そうか、そうか、相変わらずまっすぐな目だ……おっと、もう降りなくては。じゃあ、またいや、もう少しゆっくりしてから会いに来てくださいね」

「え? どういう……」

どういうことか聞きたかったが、先生は手を上げて、足を止めることなく降りてしまった。

「あ、重くん。こんばんは」

後ろから声をかけられて振り向く。

そこには淡い青いワンピースを着た女の人がたっていた。

その人はすぐに俺の横に座ってくる。

「何? 覚えてないの? 元カノなのに……」

「あ、まほか……大人っぽくなったな!」
俺はそう言って、頭を撫でる。

「もう、またそうやって子ども扱いする」

まほは頬を膨らませて、怒ってますっ顔で表現してきた。

「悪、悪。ついな、てか元カノっておままごとの話だろ? よく憶えていたな! もう十年ぐらい前の話だよな?」

「そうだよ、私の大切な記憶なの」

そう言われて、少し嬉しく思ってしまう。

「あれ、でも確かまほって今、ラシアに住んでたよな? 戻ってきたのか?」

「……うん、そう……だよ。あ、私もう降りないと。じゃぁね、重くん」

繕うような笑みを残して、まほはバスを降りていった。

今日はなんだか懐かしい人に会うな……

そう思いながら、窓の外をみる。

街灯はなくただ暗闇がそこにはあった。
ずっと見ていると飲み込まれてしまうんじゃないかって、変な妄想をしてしまう。

「……」

先程の停留所でまた誰かが乗ってきてたようだ。

椅子が軋み、俺は横をみる。

子どもだ、深夜なのに何で?

「お兄ちゃん、ありがとう。でも、ごめんなさい。僕のせいで……」

みたことない子どもだ。

でも何か見覚えもあるような?

「何か俺がしたのかな? 君はこんな遅くにどうしてバスに乗ってるの?」

「運転手さんが最後にお礼を言わせてくれるって……。でもお兄さんももう……」

「どういうこと?」

その時、バスが急ブレーキをかけて俺は前の席に頭をぶつけてしまう。

「痛っ。え?」

横の子はと気になって顔を向けると姿がなかった。

どうなっているんだ? と疑問と恐怖が同時にやって来る。

だがすぐに、通路に足が見えて椅子から落ちただけだと分かって、声をかけようと頭を横に向ける。

その瞬間、めまいに襲われた。

どうも強くぶつけてしまったのか、意識が遠退いていく。

🌑               🌑
ピ、ピ、ピ……

すぐそばで、微かな機械音がする。

「あ、目を覚ましたんですね! 今、先生を呼んできます」

聞き馴染みのない声がして、足音が遠ざかっていく。

その後、先生とやらがきて、俺は驚くべき事を知った。

どうも昨日の俺は、通勤中にバスに跳ねられそうになった子を庇って病院に運ばれたらしい。

一時期、子どもは心肺停止になったそうだが、俺が目を覚ます少し前に息を吹き返したとの事だ。

俺もかなりやばかったらしく、生きているのは奇跡だと言われた。

でも確かに俺は昨日、帰りのバスにも乗っていたはずだ。

あのバスはなんだったんだ?

俺は薄れいくバスの中の記憶を思い出そうと試みるもうまくいかない。

「じゃぁ、明日まで入院して、そこから様子を見ていきましょう」

病院の先生がそう言ってきた。

「分かりました。あの、ラシアに電話できませんか?」

「? ラシアなら今はできないと思いますよ? 内戦が始まって、かなり酷いみたいだから」

俺はそれを聞いて、ひとつの結論に至る。

あのバスを降りた人って、死んでるんじゃないか?

「それなら、北北摂高校に電話をさせてくれませんか?」

「それはかまわないけど、どうしたのですか突然」

先生は困惑したように、俺の顔を心配そうに見つめてくる。

先生けら借りた携帯電話ですぐに電話をする。

どうも実家の方に電話をしてくれるとのことで、折り返しを待つ。

先生は「後で返してね」と言って、病室をでていってしまった。

三十分ほどで折り返しがかかってきた。
その話を聞いて、俺の考えは間違いではないと思った。

どうも牧田先生は昨日、入院先の病院で亡くなったとのことだった……つまり俺もあのバスを降りていれば……体の底が冷たくなった気がした。
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