アルテミスの弓矢~オリオン座の物語~
アルテミスの弓矢~オリオン座の物語~
更新日: 2024/08/18 10:50詩、童話
本編
火星と、木星の間にある小惑星帯。
そこに浮かぶ小惑星アルテミス。
これは、その小惑星の名前の元となった女神・アルテミスの物語である。
全知全能の神・ゼウスの娘、アルテミスは、「矢をそそぐ女神」と呼ばれ、その呼び名に違わぬ、弓と狩りの名手であった。
森の精霊を従えて、アルカディアの山野で獲物を射る姿に、人間からは,狩猟と、純潔の女神として崇められていた。
人の国アテナイでは、アルテミスを讃える為、黄色の衣を着た少女たちが熊を真似て踊ったという。
ある時、狩猟の女神であるアルテミスは、ひとりの若者と出会う。
海神ポセイドンの息子で、ギリシアでも随一の狩人であったオリオンだった。
オリオンは、海神の血を引いていたためか、海の上を歩くことができ、さらには豪腕の持ち主で、姿も美しい若者であった。
同じように狩猟を好むが故か、ふたりはすぐに親しくなっていく。
やがてその親密さに、神々の間では「二人はいずれ結婚するだろう」と噂された。
だがしかし、アルテミスの.双子の弟であるアポロンだけは、二人の親密さを快く思っていなかった。
彼は乱暴で粗暴なオリオンが嫌いであったのだ。
アポロンが、二人の関係を快く思わないのには他にも理由があった。
純潔を司る処女神であるアルテミスには、恋愛が許されないのだ。
アルテミスも、アポロンがオリオンを好いていないのは知ってはいたが大して気にかけることはしなかった。
今にして思えばこの時、アルテミスがアポロンの悪意に気づいていれば、悲劇は起こらなかったのかもしれない。
実は、アポロンは恐るべき企みを持ってオリオンとアルテミスを陥れようとしていたのだ。
それは、アルテミスの愛を打ち砕くほどの卑劣な策だった。
ある時、アポロンはアルテミスを海辺に呼び出すと、アルテミスの弓の腕をわざと馬鹿にした。
そして海を指さしこう言った。
「アルテミスよ。
そなたが皆の言う通りの弓の名手なら、あれを射抜くことができるか」
アポロンが沖を指さすと、黄金の光に輝く岩があった。だが、岩は遠く離れ、小石ほどの大きさにしか見えない。これは、いかに弓の名手といえども射抜くのは難しい。
たとえアルテミス程の弓の名手であってもそうであろう。
取り巻きの妖精たちは、的《まと》を外せば皆の笑いものになってしまうと、アルテミスを止めた。
だがオリオンの挑発は度を増し、とうとうアポロンの話に乗ってしまう。
アルテミスは、遥か沖に浮かぶ的《まと》に狙いを定めた。
それを見守る妖精たちは心配でたまらない。
だが、その場でアルテミスの弓の腕を一番信じていたのは、誰あろうアポロンなのだ。
アルテミスは矢を放ち、見事に標的を射抜いてみせた。
それを見たアポロンは非礼を詫び、妖精たちは歓喜した。
しかしアルテミスは知らなかった。
的《まと》が浮かんでいた海面に、赤い血が広がっていた事を。
アルテミスが悲劇を知ったのは翌日であった。
浜辺に愛するアポロンの遺体が打ち上げられたのだ。
頭を矢に撃ち抜かれて。
なんと前の日にアルテミスが射抜いた.金色の岩は、海につかっていたオリオンの頭だったのだ。
実はアポロンは、オリオンを騙して、沖に誘い出していた。
そして、海から顔を出していたオリオンの頭を、自分の魔法で、黄金の岩にみえるようにして、それを|的《まと》だと偽り、アルテミスに矢で射たせた。
あろうことか、自分が放った矢が、アポロンの命を奪ってしまったのだ。
アルテミスは深く傷つき嘆いた。
アポロンの卑劣な計略だったとはいえ、愛する人を殺したのはアルテミス自身だったのだから。
長く長く嘆いた後、アルテミスはある事を思いつき、医師アスクレピオスを訪ねた。
アスクレピオスは、ケンタウロス族の賢者ケイローンのもとで医学を学び、その才能は師であるケイローンさえ凌ぐほどであった。
その医術の技はとても素晴らしく、怪物メドゥーサの血を使い、なんと、死者まで生き返らせることができた。
アルテミスは、アスクレピオスの元に出向くと、オリオンの復活を懇願した。
愛しいあの人にまた会える。
きっと、アスクレピオスであればオリオンを死から蘇らせる事ができるだろう。
ところが、期待に胸を膨らませていたアルテミスの前に、冥界の王ハデスが現れる。
ハデスは言った。
「アルテミスよ、矢をそそぐ女神よ。
そなたのしようとしている事は私のいる冥界の秩序を乱すものだ。冥界の王として、そのような愚行は断じて許すわけにはいかん」
ハデスは、死者を復活させようとするアルテミスの行為が、冥界の秩序を乱すものだと、オリオンを蘇らせる事をさせなかった。
それでも諦めきれないアルテミスは父であり神々の長でもあるゼウスに、オリオン復活の治療をさせてもらえか頼んだ。
だが、ゼウスも死者の復活を認めることはしなかった。
冥界の秩序を乱すということは、いずれ生者の住む地上の秩序をも乱すであろうと考えたのだ。
大神ゼウスの言葉には逆らえない。
アルテミスの希望はついに絶たれる事となった。
無慈悲な言葉を伝えたゼウスだったが、アルテミスをとても哀れにも思っていた。
そこでアルテミスの望みをひとつだけ叶えてやる事にした。
するとアルテミスは、
「ではオリオンを、空に上げてください。
そうすれば、私が夜空を駆ける時に、オリオンに会う事ができるから」
ゼウスもこれを聞き入れ、オリオンは星座として空に上げられた。
こうして、アルテミスとオリオンは、再び会えるようになったのである。
夜空の月が、オリオン座に近づくように見えるのには、こんな言い伝えがあったのだ。
これが、天に輝くオリオン座の物語である。
0そこに浮かぶ小惑星アルテミス。
これは、その小惑星の名前の元となった女神・アルテミスの物語である。
全知全能の神・ゼウスの娘、アルテミスは、「矢をそそぐ女神」と呼ばれ、その呼び名に違わぬ、弓と狩りの名手であった。
森の精霊を従えて、アルカディアの山野で獲物を射る姿に、人間からは,狩猟と、純潔の女神として崇められていた。
人の国アテナイでは、アルテミスを讃える為、黄色の衣を着た少女たちが熊を真似て踊ったという。
ある時、狩猟の女神であるアルテミスは、ひとりの若者と出会う。
海神ポセイドンの息子で、ギリシアでも随一の狩人であったオリオンだった。
オリオンは、海神の血を引いていたためか、海の上を歩くことができ、さらには豪腕の持ち主で、姿も美しい若者であった。
同じように狩猟を好むが故か、ふたりはすぐに親しくなっていく。
やがてその親密さに、神々の間では「二人はいずれ結婚するだろう」と噂された。
だがしかし、アルテミスの.双子の弟であるアポロンだけは、二人の親密さを快く思っていなかった。
彼は乱暴で粗暴なオリオンが嫌いであったのだ。
アポロンが、二人の関係を快く思わないのには他にも理由があった。
純潔を司る処女神であるアルテミスには、恋愛が許されないのだ。
アルテミスも、アポロンがオリオンを好いていないのは知ってはいたが大して気にかけることはしなかった。
今にして思えばこの時、アルテミスがアポロンの悪意に気づいていれば、悲劇は起こらなかったのかもしれない。
実は、アポロンは恐るべき企みを持ってオリオンとアルテミスを陥れようとしていたのだ。
それは、アルテミスの愛を打ち砕くほどの卑劣な策だった。
ある時、アポロンはアルテミスを海辺に呼び出すと、アルテミスの弓の腕をわざと馬鹿にした。
そして海を指さしこう言った。
「アルテミスよ。
そなたが皆の言う通りの弓の名手なら、あれを射抜くことができるか」
アポロンが沖を指さすと、黄金の光に輝く岩があった。だが、岩は遠く離れ、小石ほどの大きさにしか見えない。これは、いかに弓の名手といえども射抜くのは難しい。
たとえアルテミス程の弓の名手であってもそうであろう。
取り巻きの妖精たちは、的《まと》を外せば皆の笑いものになってしまうと、アルテミスを止めた。
だがオリオンの挑発は度を増し、とうとうアポロンの話に乗ってしまう。
アルテミスは、遥か沖に浮かぶ的《まと》に狙いを定めた。
それを見守る妖精たちは心配でたまらない。
だが、その場でアルテミスの弓の腕を一番信じていたのは、誰あろうアポロンなのだ。
アルテミスは矢を放ち、見事に標的を射抜いてみせた。
それを見たアポロンは非礼を詫び、妖精たちは歓喜した。
しかしアルテミスは知らなかった。
的《まと》が浮かんでいた海面に、赤い血が広がっていた事を。
アルテミスが悲劇を知ったのは翌日であった。
浜辺に愛するアポロンの遺体が打ち上げられたのだ。
頭を矢に撃ち抜かれて。
なんと前の日にアルテミスが射抜いた.金色の岩は、海につかっていたオリオンの頭だったのだ。
実はアポロンは、オリオンを騙して、沖に誘い出していた。
そして、海から顔を出していたオリオンの頭を、自分の魔法で、黄金の岩にみえるようにして、それを|的《まと》だと偽り、アルテミスに矢で射たせた。
あろうことか、自分が放った矢が、アポロンの命を奪ってしまったのだ。
アルテミスは深く傷つき嘆いた。
アポロンの卑劣な計略だったとはいえ、愛する人を殺したのはアルテミス自身だったのだから。
長く長く嘆いた後、アルテミスはある事を思いつき、医師アスクレピオスを訪ねた。
アスクレピオスは、ケンタウロス族の賢者ケイローンのもとで医学を学び、その才能は師であるケイローンさえ凌ぐほどであった。
その医術の技はとても素晴らしく、怪物メドゥーサの血を使い、なんと、死者まで生き返らせることができた。
アルテミスは、アスクレピオスの元に出向くと、オリオンの復活を懇願した。
愛しいあの人にまた会える。
きっと、アスクレピオスであればオリオンを死から蘇らせる事ができるだろう。
ところが、期待に胸を膨らませていたアルテミスの前に、冥界の王ハデスが現れる。
ハデスは言った。
「アルテミスよ、矢をそそぐ女神よ。
そなたのしようとしている事は私のいる冥界の秩序を乱すものだ。冥界の王として、そのような愚行は断じて許すわけにはいかん」
ハデスは、死者を復活させようとするアルテミスの行為が、冥界の秩序を乱すものだと、オリオンを蘇らせる事をさせなかった。
それでも諦めきれないアルテミスは父であり神々の長でもあるゼウスに、オリオン復活の治療をさせてもらえか頼んだ。
だが、ゼウスも死者の復活を認めることはしなかった。
冥界の秩序を乱すということは、いずれ生者の住む地上の秩序をも乱すであろうと考えたのだ。
大神ゼウスの言葉には逆らえない。
アルテミスの希望はついに絶たれる事となった。
無慈悲な言葉を伝えたゼウスだったが、アルテミスをとても哀れにも思っていた。
そこでアルテミスの望みをひとつだけ叶えてやる事にした。
するとアルテミスは、
「ではオリオンを、空に上げてください。
そうすれば、私が夜空を駆ける時に、オリオンに会う事ができるから」
ゼウスもこれを聞き入れ、オリオンは星座として空に上げられた。
こうして、アルテミスとオリオンは、再び会えるようになったのである。
夜空の月が、オリオン座に近づくように見えるのには、こんな言い伝えがあったのだ。
これが、天に輝くオリオン座の物語である。