Into the Blue
Into the Blue
更新日: 2024/08/08 21:03現代ドラマ
本編
――誰だ?
いつも学校帰りに寄り道する場所に、知らない人がいた。ぼーっと立って、海を見ている。
海が見える場所なんて他にいくらでもあるのに、なんでここに立っているんだろう。よりによって、私の一番のお気に入りの場所に……。
私の視線が背中に突き刺さったのか、その人は振り返った。お父さんよりもずっと年上の、男の人だ。ただ、猫背のお父さんとは違い、背筋がすっと伸びている。
「おや。ここは君の特等席かな?」
「いや……まぁ」
さすがに「ええ、そうです」とは言えず、私は視線を下に向けた。どいてくれることを密かに期待する。
「ここには、いい風が吹いているね」
男性はそう言って顔を上に向けた。お互い、無言の時間が流れる。この人は一体何がしたいんだろう。
――はぁ、帰るか。
そう思った瞬間、男性は突然私の目を真っすぐに見た。私は警戒心をむき出しにして睨み返す。
「そうだ。君にあげよう」
「え? 何を……ですか?」
少しだけ後ずさった私の様子を気にすることなく、男性は両手を前に出した。見えない何かを抱えるように。
「受け取れ。青き風だ」
――うわ!?
風が私の全身を駆け抜け、思わず目を閉じる。
ゆっくり目を開けると、そこに男性の姿はなく、ただ青い海が広がっているだけだった。
1いつも学校帰りに寄り道する場所に、知らない人がいた。ぼーっと立って、海を見ている。
海が見える場所なんて他にいくらでもあるのに、なんでここに立っているんだろう。よりによって、私の一番のお気に入りの場所に……。
私の視線が背中に突き刺さったのか、その人は振り返った。お父さんよりもずっと年上の、男の人だ。ただ、猫背のお父さんとは違い、背筋がすっと伸びている。
「おや。ここは君の特等席かな?」
「いや……まぁ」
さすがに「ええ、そうです」とは言えず、私は視線を下に向けた。どいてくれることを密かに期待する。
「ここには、いい風が吹いているね」
男性はそう言って顔を上に向けた。お互い、無言の時間が流れる。この人は一体何がしたいんだろう。
――はぁ、帰るか。
そう思った瞬間、男性は突然私の目を真っすぐに見た。私は警戒心をむき出しにして睨み返す。
「そうだ。君にあげよう」
「え? 何を……ですか?」
少しだけ後ずさった私の様子を気にすることなく、男性は両手を前に出した。見えない何かを抱えるように。
「受け取れ。青き風だ」
――うわ!?
風が私の全身を駆け抜け、思わず目を閉じる。
ゆっくり目を開けると、そこに男性の姿はなく、ただ青い海が広がっているだけだった。