やさしい雨に

作家: 詩月 七夜
作家(かな): しづき ななや

やさしい雨に

更新日: 2024/06/28 20:39
詩、童話

本編


何もない休日の午後

私はあたたかい飲み物を手に

窓辺にもたれて一人で過ごす

外はひさしぶりの雨

山も木も 人もお地蔵さんも 等しく濡《ぬ》れて

世界は白く雨の色に包まれる



この季節に降る雨は

古い時計のように静かで穏やかだ

葉や軒《のき》から滴《したた》る水滴が

重ねた時間を懐かしむ秒針のように

音のないリズムを刻《きざ》む

梢《こずえ》には小さな鳥

大気に満ちた水の中で目を閉じ

ゆるやかな流れに憩《いこ》う魚のように

束《つか》の間のまどろみに身を任せている

雲は重たげなその身を億劫《おっくう》そうに動かし

風は今日という日を休日にした

その中で雨だけが

時間を刻みながら世界に向けて語っている

それは安らかな眠りにも似た「やさしい物語」

拍手もないが遮《さえぎ》る者もいない



雨が語る「物語」はまだ終わらない

だから私は耳だけを世界に預けて

祈るようにそっと目を閉じた
0