きのうは雨がふったから

作家: 浜風 帆
作家(かな): はまかぜ ほ

きのうは雨がふったから

更新日: 2024/06/26 20:26
詩、童話

本編


きのうは雨がふったから、
木漏れ日の下、
アジサイの葉も、
眩しいぐらいに輝いていた。

サララとした風に木漏れ日がゆれる。
「なんだかおかしい」
葉の上、雨粒、クスクス笑う。

土のかおりを孕んだ朝もやに、
透き通った光の筋が躍る。
少しひんやり。
なでるような大気。

少し青い若葉の香り。
少しツンと鼻にくる。

なんだかおかしい。

きのうはあんなに雨だったのに、
きょうは雲ひとつない青空。
さあ、これから暑くなるんだぞ太陽がいばってる。

だから、また、
「なんだかおかしいね」と花が揺れた。

アヤメ、ラベンダー、アガパンサス、クレマチス、
タチアオイ、サルビア、アカンサス、    
そしてアジサイ。

いろんな花がさ、
みんな揺れて笑ってる。
だからこっちもおかしくなる。

きのうは雨がふったから、
ほんの少しいつもと違う。

きょうは道も潤って、
アスファルトには天色の水。
映る青空は海のよう。
輝く若葉はエメラルド。
散らばった花はルビーのブローチ。

水面の中で風がふく。
ちょっと世界が揺らめいて、
ちょっと世界が笑ってて、
ちょっと世界がかおってて、
ちょっと世界が広がって。

一歩踏み出すと、
ちょっと心が溶け込んで、
ちょっと世界が浮き上がる。

ちょっとだけ口の中に甘い味がした気がして……
それは、きのうは雨がふったから。

「あーした天気になーれ」
いつか呟いたおまじない。
窓辺で笑うてるてる坊主。
「明日はいい日になりますようーに」
よーく降った、涙の雨。

水溜りに映った自分の顔、
泣いた日の子供みたい。
不思議なデジャブが体をめぐり、
なんだかちょっとおかしいね。

でもさぁ、きょうは晴れ。

ポーンと飛んだ水溜り。
きのうの忘れ形見を越えて、
一歩、
また、きょうが始まります。

きのうは雨がふったから、
だから、
なんだかおかしいね。

Fin
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