スイカとばっちゃと夏休み
スイカとばっちゃと夏休み
更新日: 2024/06/12 18:59その他
本編
僕は毎年、夏休みにばっちゃの家に連れていかれる。
ミーン、ミーンとセミが忙しなく鳴る田舎道を徒歩で進む。
すごく田舎で山の中にあるばっちゃの家は幼い頃は虫取や近くの川なんかで遊べて楽しかったけど、高校生になった今では少し退屈だ。
それでもばっちゃは好きだし、今年は少し遅れる両親より先に来てしまった。
「良く来たね~、立派に育って~」
ばっちゃは一人できた僕をニコニコと嬉しそうに出迎えてくれる。
「あぁ、うん。あ、母さん達は後から来るって」
「うんだ、聞いとるだ。気にせんでええよ。暑いやろ、はよ居間にいきんさい」
ばっちゃは変わらず元気そうで安心する。
言われるがまま居間に行き、ちゃぶ台の前に座った。
部屋のなかは古いタンスとテレビがあるだけのシンプルな和室。
このテレビ、今年もつけたらダメだよな……
僕はふとそんなことを思う。
山あいのせいかスマホは繋がらないし、唯一の娯楽だが、ばっちゃが怖がるので夏場はつけない約束なのだ。
昔一度だけこそっとつけて甲子園の中継を観ていたら部屋に入ってきたばっちゃがひどく怯えて、倒れたことがあった。
そういえば、あの時どうして倒れたんだっけ?
当時の記憶は曖昧でそこまで思い出せない。
「ほら、健《たけし》スイカ切ったど」
ばっちゃがスイカを持ってきてくれた。
「ありがと。……うん、甘い」
僕は夢中で頬張る。
「本当、健はスイカが好きだね」
「いや、ばっちゃのスイカだけだよ。こんなに美味しいのは」
「煽てても、なんもねえぞ」
ばっちゃは嬉しそうにスイカを食べ始める。
ばっちゃは庭でスイカや野菜を育てているのだが、どれもスーパーマーケットのものより美味しいと思う。
あ、そうだ。さっきの事を聞いてみよう。
僕はふとテレビの話題をだすチャンスだと思って、聴くこと決めた。
「あのさ、何で昔テレビを怖がったの?」
「え? あぁ、あん時の事か~。そんな気にせんでいい」
申し訳なさそうに見えたのか、けらけら笑ってくれる。
「そのさ、悪いとは本当に思ってるけど……理由が知りたいんだ」
「うーん、まぁ、健も高校生だし話してもエエが~」
ばっちゃは少し考えたあと、話してくれた。
昔、日本は戦争していたこと。
そしてばっちゃはその中を生き抜いたことを……その時の空襲警報の音を甲子園のサイレンを聴くと思い出してしまうとあうことを。
「ごめんなさい。そんなつらい事を思い出させて」
僕はスイカを食べるのをやめて、その場で土下座する。
子供だったとはいえ、そんなことも知らず僕はばっちゃを苦しめたのだ。
そしてまた、僕は当時の記憶を思い出させようとしてしまったことが、申し訳ないと思った。
「健、あんたは本当にええこやな。気にせんでええ、それより、健今年から甲子園に向けて練習なんだって?」
「え? うん、母さんから聞いたの?」
「ああ、そうだ。テレビ越しで応援してる」
「でも、音が……」
「知ってか、健。テレビはな、音がなくても楽しめるだ」
ばっちゃはそう言ってテレビをつけてくれた。
無音のテレビには字幕があり、確かに観れないことはないなって思う。
「ばっちゃはやっぱり凄いな。うん、絶対勝ってみせるよ! でテレビに写る」
僕はばっちゃにそう笑いかけまた甘いスイカを口にするのだった。
(完)
0ミーン、ミーンとセミが忙しなく鳴る田舎道を徒歩で進む。
すごく田舎で山の中にあるばっちゃの家は幼い頃は虫取や近くの川なんかで遊べて楽しかったけど、高校生になった今では少し退屈だ。
それでもばっちゃは好きだし、今年は少し遅れる両親より先に来てしまった。
「良く来たね~、立派に育って~」
ばっちゃは一人できた僕をニコニコと嬉しそうに出迎えてくれる。
「あぁ、うん。あ、母さん達は後から来るって」
「うんだ、聞いとるだ。気にせんでええよ。暑いやろ、はよ居間にいきんさい」
ばっちゃは変わらず元気そうで安心する。
言われるがまま居間に行き、ちゃぶ台の前に座った。
部屋のなかは古いタンスとテレビがあるだけのシンプルな和室。
このテレビ、今年もつけたらダメだよな……
僕はふとそんなことを思う。
山あいのせいかスマホは繋がらないし、唯一の娯楽だが、ばっちゃが怖がるので夏場はつけない約束なのだ。
昔一度だけこそっとつけて甲子園の中継を観ていたら部屋に入ってきたばっちゃがひどく怯えて、倒れたことがあった。
そういえば、あの時どうして倒れたんだっけ?
当時の記憶は曖昧でそこまで思い出せない。
「ほら、健《たけし》スイカ切ったど」
ばっちゃがスイカを持ってきてくれた。
「ありがと。……うん、甘い」
僕は夢中で頬張る。
「本当、健はスイカが好きだね」
「いや、ばっちゃのスイカだけだよ。こんなに美味しいのは」
「煽てても、なんもねえぞ」
ばっちゃは嬉しそうにスイカを食べ始める。
ばっちゃは庭でスイカや野菜を育てているのだが、どれもスーパーマーケットのものより美味しいと思う。
あ、そうだ。さっきの事を聞いてみよう。
僕はふとテレビの話題をだすチャンスだと思って、聴くこと決めた。
「あのさ、何で昔テレビを怖がったの?」
「え? あぁ、あん時の事か~。そんな気にせんでいい」
申し訳なさそうに見えたのか、けらけら笑ってくれる。
「そのさ、悪いとは本当に思ってるけど……理由が知りたいんだ」
「うーん、まぁ、健も高校生だし話してもエエが~」
ばっちゃは少し考えたあと、話してくれた。
昔、日本は戦争していたこと。
そしてばっちゃはその中を生き抜いたことを……その時の空襲警報の音を甲子園のサイレンを聴くと思い出してしまうとあうことを。
「ごめんなさい。そんなつらい事を思い出させて」
僕はスイカを食べるのをやめて、その場で土下座する。
子供だったとはいえ、そんなことも知らず僕はばっちゃを苦しめたのだ。
そしてまた、僕は当時の記憶を思い出させようとしてしまったことが、申し訳ないと思った。
「健、あんたは本当にええこやな。気にせんでええ、それより、健今年から甲子園に向けて練習なんだって?」
「え? うん、母さんから聞いたの?」
「ああ、そうだ。テレビ越しで応援してる」
「でも、音が……」
「知ってか、健。テレビはな、音がなくても楽しめるだ」
ばっちゃはそう言ってテレビをつけてくれた。
無音のテレビには字幕があり、確かに観れないことはないなって思う。
「ばっちゃはやっぱり凄いな。うん、絶対勝ってみせるよ! でテレビに写る」
僕はばっちゃにそう笑いかけまた甘いスイカを口にするのだった。
(完)