雪の思い出
雪の思い出
更新日: 2024/03/24 21:53詩、童話
本編
「あら〜」
「あれ〜」
「あ〜らら〜」
「私、落ちてるわ」
「僕も、落ちてる」
「いい気分じゃ」
「あなた綺麗な六角形」
「君は輝いてるよ。キラキラ。雪だね」
「そうじゃ、雪じゃ。だから落ちとる」
「なら、もうすぐ消えるわね」
「そうだね。消えるね」
「まあ、そういうことじゃな」
「街ね」
「そうだねいろんな家が見えて来た」
「あそこには小学校があってな。あっちに団地の建物がある」
「向こうに山があるわ。半分白くなってる」
「反対側には海があるね。霞んでるけど」
「いい景色じゃ。わしはこの街が好きじゃ」
「私、なんだかここに落ちたかった気がする」
「僕は何だか懐かしい」
「雪の思い出じゃ。雪の思い出」
「何か思い出しそうで……」
「思い出せない」
「でも、感じるじゃろ」
「そうね」
「そうだね」
「そうじゃ。ありのままじゃ。レット イット ビイじゃ。いや、レット イット ゴウか?。ま、一曲歌ってしんぜようかね」
「ひゅーと風が吹いて来たわ」
「僕らの気持ちを察したんだね」
「あれ〜、寒い〜、そして流されてくぞーーー」
「もうすぐ落ちるわ」
「最後ぐらい、雪らしくありたいな」
「雪らしくとは?」
「……しんしん」
「……しんしん」
「そうなの? それが雪らしいの?」
「しんしん」
「しんしん」
「……しーんしん。しーんしん」
「つくね」
「つくよ」
「ついた」
「短い間だったけど、あなたたちと話せてよかったわ」
「何もたいした話はしてないけどね」
「そう言うな。雰囲気が大事なんじゃ。ムードとも言う。さあ、溶けるか。今生の別れじゃ」
「それじゃ」
「バイバイ」
「何じゃ、そっけないのう。もっと別れを惜しまぬか。最近のゆきんこ達は」
静かに冷たい風が吹いた。
○
「あら〜」
「あれ〜」
「あ〜らら〜」
「私、消えなかった」
「僕も、消えなかった」
「わしもじゃ」
「雪だるまだね。私」
「僕も」
「わしもじゃ」
「雪子ちゃんって呼ばれた」
「僕も」
「わしもじゃ」
「あなた達、雪子ちゃんじゃない」
「え、だって同じ雪だるま」
「わしもじゃ、わし、雪子ちゃん」
「私が雪子ちゃん」
「僕が雪子ちゃん」
「わしが雪子ちゃんじゃ」
「……いいわ。許してあげる。みんな雪子ちゃん」
「やったー」
「ヒャッホー、この年にしてはつ雪子ちゃんデビューじゃ」
「私、なんだか昔はボールになって投げられた気がするの」
「あっちで、みんながやってるよ」
「雪合戦じゃ」
「楽しかったな。私のボールは当たらなかったけど、みんな笑ってた」
「あっちから笑い声が聞こえるね」
「えーのー、青春じゃ」
「私、ここに来たかった気がする」
「うん」
「そうじゃな。だから風に運ばれて来たんじゃろう」
「そう」
「そうなんだね」
「そうなんじゃ」
「ここで静かに溶けるのね」
「そうなんだね」
「そうなんじゃな」
校庭に日がさし、周りがキラキラ輝いた。
○
「あら〜」
「あれ〜」
「あ〜らら〜」
「隣に雪男君ができたわ」
「後ろには雪江ちゃん」
「こっちには雪坊じゃ」
「何だか騒がしくなったね」
「何だか楽しくなったね」
「何だか嬉しくなるのう」
「何だか家族ができたみたい」
「僕たち一番さいしょにできたから、一番年上だ」
「じゃ、おじいちゃんじゃな。いや、雪子だからおばあちゃんか」
「いやよ。私たちはお母さん」
「じゃ、隣にいるのはお父さん?」
「雪坊はまだ、赤ちゃんじゃな」
「友達もいっぱい。見てあそこ」
「本当だ、いっぱい作ってる」
「友達になれるかのう?」
「動けないのが残念ね」
「おーい、そっちの雪だるまくーん」
「元気でやってるかーい?」
「返事があった気がするわ」
「うん。返事があった気がする」
「確かに。元気でやってるよーって聞こえた気がする」
「楽しかったね」
「楽しかったよ」
「まさかまさかじゃ。家族と友達ができるとは」
「そうね」
「そうだね」
「動けんのになあ……」
「でも、そろそろみたい。隣の雪男さんは溶けて来てる」
「あー、日差しにあたったから」
「次は、わしらじゃ」
「よーく見とこ」
「うん、よく見とく」
「そうじゃな。ありがとう」
○
「あら〜」
「あれ〜」
「あ〜らら〜」
「私、分裂しちゃった、ミニ雪子ちゃん」
「僕も、ミニミニ雪子ちゃんツー」
「わしは、ミニミニミニ雪子ちゃんスリー」
「運ばれてるわ」
「3姉妹に運ばれてる」
「あ、あぶない! 頑張れー、落とすんじゃないぞー。あ、長靴が脱げた。お姉ちゃん達、待ってあげてー」
「大丈夫?」
「気をつけて」
「泣かんでもええじゃろ。大丈夫じゃ、ちゃんと、お姉ちゃん達待ってくれとる。よーしよし。いいこじゃ。いいこじゃ」
「頑張れー」
「頑張れー」
「そうじゃ。泣かなくていい。みんな待っとる」
「よかったね」
「がんばったね」
「一安心じゃ」
「私たちどうなるのかしら?」
「そうだねー」
「そうじゃのう」
「しんしん」
「なに?」
「なんじゃ?」
「言ってみたの」
「どうして」
「もう、降ってる雪でもあるまいし」
「なんとなく。……しんしん」
「……しんしん」
「……しーんしん」
「しんしん」
「しんしん」
「しーんしん」
○
「あら〜」
「あれ〜」
「あ〜らら〜」
「あら〜」
「あれ〜」
「あ〜らら〜」
「あら〜」
「あれ〜」
「あ〜らら〜」
「ビックリなんだけど」
「冷凍庫だね」
「みなさんこんにちわ」
「みんな眠ってる」
「そうだね。眠ってる」
「ご機嫌、いかがですか〜?」
「ダメよ。おこしちゃ」
「そうだよ。悪いよ」
「あ、真っ暗になった。ミニミニミニ雪子ちゃんスリー、怖い!」
「何も見えない」
「ちゃんといる?」
「いるぞい」
「私、雪じゃないのかも」
「え?」
「うん?」
「形がなくなったら、私は何?」
「君は雪だよ」
「そして君はミニ雪子ちゃん」
「いま、私に体はない。ここにあるのは意識だけ。そしてふんわりしたモヤが……」
「なにか思い出せないふんわりしたものに包まれてるような……」
「雪子ちゃんスリー怖い。みんな大丈夫? しっかりして〜〜 ……あ〜、でも、眠、い」
ヴゥオーンと冷蔵庫の動く音が響いた。
○
「あら〜」
「あれ〜」
「あ〜らら〜」
「ここはどこ?」
「お庭だよ」
「お母さんとお父さんに見つかっちゃったんじゃ。あそこ、窓のところ3人バイバイしとる」
「バイバーイ」
「さよならー」
「ありがとうなー」
「バイバイーーーイ」
「……うん」
「さよならねー」
「うん」
「うん」
「……あのー、こんな時に申し訳ないんじゃが、ワンちゃんがこっちをジーとみとるんじゃ」
「近づいて来てる」
「あー、あの子は大丈夫。吠えたりしないし、食べたりしない」
「そ、そうか?」
「こ、こんにちは」
「久しぶり」
「ど、どうも」
「知り合い?」
「そんな気がするんだ」
「よ、よろしくな」
「みんなあっち行っちゃったね」
「ごはんを食べに行ったんだね」
「いいなー。ご飯。ま、わしらもそろそろ終わりにするか。この先は流石にあるまい。わいは今回頑張った。あの子を少しは励ました。気がするんじゃが、まあ気のせいか。わしの声なんて聞こえんもんな」
「聞こえたよ」
「聞こえた。そして聞いてた。あの子も。ちゃんと」
「そうか? そうか。 なら、わし、もういいや。十分じゃ」
「私……」
「うん?」
「どうした?」
「わかったの!」
「うん?」
「なんじゃ?」
「私はここに来たかった。雪になって、あのグランドに落ちかった。みんなにあって雪だるまになりたかった。……そして、ここに来たかった」
「うん」
「そうか。……そうかもしれんな」
「絶対そう。私がここに来るのを選んだの。うん」
「そうだね」
「そうじゃな」
「ありがとーーー!」
「……うん。また来雪」
「……わし、もう十分じゃ」
「しんしん」
「しんしん」
「しーんしん」
「しんしん」
「しんしん」
「しーんしん」
Fin
0「あれ〜」
「あ〜らら〜」
「私、落ちてるわ」
「僕も、落ちてる」
「いい気分じゃ」
「あなた綺麗な六角形」
「君は輝いてるよ。キラキラ。雪だね」
「そうじゃ、雪じゃ。だから落ちとる」
「なら、もうすぐ消えるわね」
「そうだね。消えるね」
「まあ、そういうことじゃな」
「街ね」
「そうだねいろんな家が見えて来た」
「あそこには小学校があってな。あっちに団地の建物がある」
「向こうに山があるわ。半分白くなってる」
「反対側には海があるね。霞んでるけど」
「いい景色じゃ。わしはこの街が好きじゃ」
「私、なんだかここに落ちたかった気がする」
「僕は何だか懐かしい」
「雪の思い出じゃ。雪の思い出」
「何か思い出しそうで……」
「思い出せない」
「でも、感じるじゃろ」
「そうね」
「そうだね」
「そうじゃ。ありのままじゃ。レット イット ビイじゃ。いや、レット イット ゴウか?。ま、一曲歌ってしんぜようかね」
「ひゅーと風が吹いて来たわ」
「僕らの気持ちを察したんだね」
「あれ〜、寒い〜、そして流されてくぞーーー」
「もうすぐ落ちるわ」
「最後ぐらい、雪らしくありたいな」
「雪らしくとは?」
「……しんしん」
「……しんしん」
「そうなの? それが雪らしいの?」
「しんしん」
「しんしん」
「……しーんしん。しーんしん」
「つくね」
「つくよ」
「ついた」
「短い間だったけど、あなたたちと話せてよかったわ」
「何もたいした話はしてないけどね」
「そう言うな。雰囲気が大事なんじゃ。ムードとも言う。さあ、溶けるか。今生の別れじゃ」
「それじゃ」
「バイバイ」
「何じゃ、そっけないのう。もっと別れを惜しまぬか。最近のゆきんこ達は」
静かに冷たい風が吹いた。
○
「あら〜」
「あれ〜」
「あ〜らら〜」
「私、消えなかった」
「僕も、消えなかった」
「わしもじゃ」
「雪だるまだね。私」
「僕も」
「わしもじゃ」
「雪子ちゃんって呼ばれた」
「僕も」
「わしもじゃ」
「あなた達、雪子ちゃんじゃない」
「え、だって同じ雪だるま」
「わしもじゃ、わし、雪子ちゃん」
「私が雪子ちゃん」
「僕が雪子ちゃん」
「わしが雪子ちゃんじゃ」
「……いいわ。許してあげる。みんな雪子ちゃん」
「やったー」
「ヒャッホー、この年にしてはつ雪子ちゃんデビューじゃ」
「私、なんだか昔はボールになって投げられた気がするの」
「あっちで、みんながやってるよ」
「雪合戦じゃ」
「楽しかったな。私のボールは当たらなかったけど、みんな笑ってた」
「あっちから笑い声が聞こえるね」
「えーのー、青春じゃ」
「私、ここに来たかった気がする」
「うん」
「そうじゃな。だから風に運ばれて来たんじゃろう」
「そう」
「そうなんだね」
「そうなんじゃ」
「ここで静かに溶けるのね」
「そうなんだね」
「そうなんじゃな」
校庭に日がさし、周りがキラキラ輝いた。
○
「あら〜」
「あれ〜」
「あ〜らら〜」
「隣に雪男君ができたわ」
「後ろには雪江ちゃん」
「こっちには雪坊じゃ」
「何だか騒がしくなったね」
「何だか楽しくなったね」
「何だか嬉しくなるのう」
「何だか家族ができたみたい」
「僕たち一番さいしょにできたから、一番年上だ」
「じゃ、おじいちゃんじゃな。いや、雪子だからおばあちゃんか」
「いやよ。私たちはお母さん」
「じゃ、隣にいるのはお父さん?」
「雪坊はまだ、赤ちゃんじゃな」
「友達もいっぱい。見てあそこ」
「本当だ、いっぱい作ってる」
「友達になれるかのう?」
「動けないのが残念ね」
「おーい、そっちの雪だるまくーん」
「元気でやってるかーい?」
「返事があった気がするわ」
「うん。返事があった気がする」
「確かに。元気でやってるよーって聞こえた気がする」
「楽しかったね」
「楽しかったよ」
「まさかまさかじゃ。家族と友達ができるとは」
「そうね」
「そうだね」
「動けんのになあ……」
「でも、そろそろみたい。隣の雪男さんは溶けて来てる」
「あー、日差しにあたったから」
「次は、わしらじゃ」
「よーく見とこ」
「うん、よく見とく」
「そうじゃな。ありがとう」
○
「あら〜」
「あれ〜」
「あ〜らら〜」
「私、分裂しちゃった、ミニ雪子ちゃん」
「僕も、ミニミニ雪子ちゃんツー」
「わしは、ミニミニミニ雪子ちゃんスリー」
「運ばれてるわ」
「3姉妹に運ばれてる」
「あ、あぶない! 頑張れー、落とすんじゃないぞー。あ、長靴が脱げた。お姉ちゃん達、待ってあげてー」
「大丈夫?」
「気をつけて」
「泣かんでもええじゃろ。大丈夫じゃ、ちゃんと、お姉ちゃん達待ってくれとる。よーしよし。いいこじゃ。いいこじゃ」
「頑張れー」
「頑張れー」
「そうじゃ。泣かなくていい。みんな待っとる」
「よかったね」
「がんばったね」
「一安心じゃ」
「私たちどうなるのかしら?」
「そうだねー」
「そうじゃのう」
「しんしん」
「なに?」
「なんじゃ?」
「言ってみたの」
「どうして」
「もう、降ってる雪でもあるまいし」
「なんとなく。……しんしん」
「……しんしん」
「……しーんしん」
「しんしん」
「しんしん」
「しーんしん」
○
「あら〜」
「あれ〜」
「あ〜らら〜」
「あら〜」
「あれ〜」
「あ〜らら〜」
「あら〜」
「あれ〜」
「あ〜らら〜」
「ビックリなんだけど」
「冷凍庫だね」
「みなさんこんにちわ」
「みんな眠ってる」
「そうだね。眠ってる」
「ご機嫌、いかがですか〜?」
「ダメよ。おこしちゃ」
「そうだよ。悪いよ」
「あ、真っ暗になった。ミニミニミニ雪子ちゃんスリー、怖い!」
「何も見えない」
「ちゃんといる?」
「いるぞい」
「私、雪じゃないのかも」
「え?」
「うん?」
「形がなくなったら、私は何?」
「君は雪だよ」
「そして君はミニ雪子ちゃん」
「いま、私に体はない。ここにあるのは意識だけ。そしてふんわりしたモヤが……」
「なにか思い出せないふんわりしたものに包まれてるような……」
「雪子ちゃんスリー怖い。みんな大丈夫? しっかりして〜〜 ……あ〜、でも、眠、い」
ヴゥオーンと冷蔵庫の動く音が響いた。
○
「あら〜」
「あれ〜」
「あ〜らら〜」
「ここはどこ?」
「お庭だよ」
「お母さんとお父さんに見つかっちゃったんじゃ。あそこ、窓のところ3人バイバイしとる」
「バイバーイ」
「さよならー」
「ありがとうなー」
「バイバイーーーイ」
「……うん」
「さよならねー」
「うん」
「うん」
「……あのー、こんな時に申し訳ないんじゃが、ワンちゃんがこっちをジーとみとるんじゃ」
「近づいて来てる」
「あー、あの子は大丈夫。吠えたりしないし、食べたりしない」
「そ、そうか?」
「こ、こんにちは」
「久しぶり」
「ど、どうも」
「知り合い?」
「そんな気がするんだ」
「よ、よろしくな」
「みんなあっち行っちゃったね」
「ごはんを食べに行ったんだね」
「いいなー。ご飯。ま、わしらもそろそろ終わりにするか。この先は流石にあるまい。わいは今回頑張った。あの子を少しは励ました。気がするんじゃが、まあ気のせいか。わしの声なんて聞こえんもんな」
「聞こえたよ」
「聞こえた。そして聞いてた。あの子も。ちゃんと」
「そうか? そうか。 なら、わし、もういいや。十分じゃ」
「私……」
「うん?」
「どうした?」
「わかったの!」
「うん?」
「なんじゃ?」
「私はここに来たかった。雪になって、あのグランドに落ちかった。みんなにあって雪だるまになりたかった。……そして、ここに来たかった」
「うん」
「そうか。……そうかもしれんな」
「絶対そう。私がここに来るのを選んだの。うん」
「そうだね」
「そうじゃな」
「ありがとーーー!」
「……うん。また来雪」
「……わし、もう十分じゃ」
「しんしん」
「しんしん」
「しーんしん」
「しんしん」
「しんしん」
「しーんしん」
Fin