ごめんよ、あの日のハヤシライス。

作家: 浜風 帆
作家(かな): はまかぜ ほ

ごめんよ、あの日のハヤシライス。

更新日: 2024/03/20 20:10
その他

本編


小さい頃、僕は君にひどいことを言った。
「これ、ペチャってした味してる」

君に出会ったのは確か大型スーパーのカフェテリア。
おじいちゃんに連れて行ってもらった場所で食べたんだ。
ガヤガヤにぎやかな場所で、いろんないい匂いがしてて。
確かあの時はハンバーガー食べようか、君を食べようか迷ってて、
で、結局、シェイクが飲みたくて僕はいつものハンバーガーにした。

そしたら、おじいちゃんがハヤシライスにしたから、
ヤッターッて思ったよ。
だって、両方食べられるじゃん。
美味しさ2倍、うれしさ4倍。
ここぞとばかりに習ったばっかりの掛け算を使ってみたんだ。

ガヤガヤ、ザワザワ、騒がしい場所で、
僕はおじいちゃんから一口もらい、君を食べた。

その瞬間、口に広がった味にビックリしたんだ。
そして「これ、ペチャっとしてる」と言ってしまった。

おじいちゃんが、キョトンとしてしていた。

ごめんね。君は本当はペチャっとなんかしてなかったんだよ。
トマトの味が魅力的なハヤシライスだったに違いない。

だけどごめんよ。
あの時、僕は君のことをよく知らず、
君のことを何となくカレーと思って食べたんだ。

カレーの味を想像して食べたハヤシライス。
その味の違いに衝撃を受けて「これ、ペチャっとしてる」って言っちゃったんだ。
そしてすぐに君の残りをおじいちゃんに返した。
半分、泣きながら君を返した。

おじいちゃんが困ってたのを覚えてる。

そりゃあ、当たり前だよね。
君はカレーじゃない。

まだ、子供用の甘口カレーしか食べてない頃、
甘口カレーの味しか知らなかったけど、
あまりのショックに、
僕は、お父さんにも、お母さんにも、
「あいつ、ペチャっとしてる」って言ってしまったんだ。

友達にも言った。
「何だそれ?」ってハハハって笑われた。
僕も笑われてショックだった。

でも、ごめんね。
一番ショックを受けていたのは、
間違いなく君だ。

僕はバカだから、
僕が君の良さを知ったのはかなり大きくなってからだ。
一人でお昼ご飯を買って食べるようになった頃、
やっとカレーライスとハヤシライスの味が違う事が分かり、
そして君の美味しさを知ったんだよ。

もう、その頃には、僕はこの街を出ていたのだけれども……


今日、フラッとこの街に戻ってきて、
僕はビックリした。

海が埋め立てられ、かつてこの地から見えた海岸がなくなっていた。
多くの家も建て替えられ、マンションも塗装が変わって違って見えた。
公園の遊具は取り除かれ、ただの広場になっている。
学校はあったけど、子供が少なくて何だか寂しいな。

まるで知らない街を漂流するように歩いて、
僕は大型スーパーにたどり着いた。
まだ、あった。

そしてカフェテリアへ。

……なんと! 君は、いた。

何だかおかしくて、フフって鼻で笑ってしまったよ。
ごめんね。

僕は君を頼んだ。
一体どれぐらいぶりだろうか?
ふっと今はもういない、あのおじいちゃんの顔が浮かんだ。

大丈夫。僕は大人になってハヤシライスが好きになったんだ。
と自慢して言うほどのことじゃないけれど、ちょっとおじいちゃんに報告したくなった。
そして君に会えて嬉しく思う。

美味しそうな匂いがする、あつあつのご飯とハヤシライスのルーから白い湯気が立ちのぼっている。
かなりトロミのつよいそのルーの上にちょんちょんとグリーンピースが乗っている。

あの時は、間違った思い込みで食べて残してしまったけど、
今度は大丈夫と思って口に入れた。

そして「あ、ペチャっとしてる」と僕は言ってしまった。
やっぱり、ペチャっとしてたのだ。

そうか。あの時の僕の感覚はあながち間違っていなかったのだ。
君は、トマトのハヤシライスじゃないんだな。
デミグラスソースだ。
なるほどー。そうだったのかー……

僕は、またしても思い込みを食べていた。
やってしまったー。なんてこったい。

僕は一呼吸置いて、
静かに自分をリセットして君と向き合った。

スプーンにすくい口に君を運ぶ。
こんどは君の味はスッと僕に入ってきた。
ペチャっとしてはいたけど、それもおいしかった。
そうかと頷いた。

思い込みがなくなって、やっと君がわかったんだ。
僕はきれいに平らげた。

ごめんよ。やっとわかったよ。
そして、おいしかったよ。
また来たい。

その時まで、お元気で。


Fin
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