あぁ、たぬきはもう駄目です

あぁ、たぬきはもう駄目です

更新日: 2024/03/16 07:11
詩、童話

本編


 ふらふらと散歩をしていたら、箱罠にかかったたぬきが「ここから出してください」としょぼしょぼした顔で見上げてきた。

「どうしてこんな所にたぬきが?」と訊けば「美味しそうなものが落ちていたので……」と、たぬき。

 それにしたってこんなに雑に置かれている罠にかかる奴がいるなんてと首を傾げたくなる。

 何しろ道の真ん中にポツンと置かれた箱罠である。いくら美味しそうなエサがあったところで……、もしやわざと? などと疑ってみたものの、わざと箱罠にかかっても何の利益もない。そもそもたぬきはそんなに器用ではない。

「ああ、たぬきはもう駄目です」と言わんばかりの姿はなるほど可愛くて、ささくれだった心が穏やかになるような気がした。

「仕方ないな。もう来るんじゃないぞ」と何度も言い含めてから檻の戸を開けてやる。

「すみませんねぇ……」としょげしょげしながら藪に消えるたぬき。

 さすがにこれで懲りただろうと思っていたら「いや、アイツはまた来るぞ」と、阿あ。吽うんまで「アイツは私らを仲間だと勘違いしているからな」などと言い出した。

「いくら何でもたぬきと狛犬は似ても似つかないでしょう」と苦言を呈せば「お前はあのたぬきをわかっちゃいない」「たぬきの中でもあいつは鈍くさいたぬきなんだから」などと責め立てられる始末。

 そんなバカなと翌朝様子を見に来たら、なんと同じたぬきがまた箱罠の中にいる。

「おはようございます。早起きですね」と挨拶してみれば「ええ、お腹が空いたものですから」と、たぬき。もはや寛ぎ始めている。

「居心地が良さそうですね」

「まぁ悪くはないです」

「ならばいっそ住んでしまえばいいのでは?」

「ご飯が頂けるならたぬきは一向に構いませんよ」

「エサはご自分で取って来てください」

「ええっ……三食お昼寝おやつ付き物件じゃないんですか……?」

 落ちこむたぬきを尻目に、どこからともなくやってきたアライグマが罠に入れていたエサを隙間から器用にかっさらい、尻尾を振り振り藪に消えていった。
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